今月のイチオシ本 デビュー小説 大森 望
新本格ミステリ30周年を祝うかのように、東京創元社の新人賞・鮎川哲也賞(第27回)から、コテコテの新本格が登場した。その名も『屍人荘の殺人』。
帯にいわく、「たった一時間半で世界は一変した。全員が死ぬか生きるかの極限状況下で起きる密室殺人」。
主人公は、神紅大学(関西の有名私立大)ミステリ愛好会の1回生、葉村譲。ミステリマニアだったことが災いして、変人で知られる会長の明智恭介に見込まれ、ワトソン役をつとめることに。
その2人の前に現れたのが、探偵少女として名を馳せる美少女、剣崎比留子(文学部2回生)。彼女の依頼は、映画研究部の夏合宿に一緒に参加すること。かくして3人は、ペンション紫湛荘に赴く。
──と、ベタすぎる導入を経て、合宿初日の夜、予想だにしない事態が発生。メンバーは孤立した紫湛荘に立て籠もることに。翌朝、部員の1人の惨殺死体が密室状況で発見される……。
題名に・屍人荘・とあるので隠すまでもありませんが、本書のキモは、本格ミステリと***(念のため伏せ字)小説のマッシュアップ。ともにお約束の多いジャンルなので、意外と相性は悪くない。***事態を密室の構成要件にするだけでなく、***を凶器に使ったりする発想が面白い。
鮎川賞の選考委員は、「斬新というか奇抜というか、あまりの展開に呆然!」(加納朋子)、「奇想と本格ミステリの融合が、実に見事」(北村薫)、「展開といい不可能演出といい最後の解明といい、紛れもなく水際立った本格ミステリである」(辻真先)と、3氏とも絶賛。
犯行動機が弱いとか(原因となる1年前の事件の真相からして新味と説得力に乏しい)、外部で進行する***事態の描写が物足りないとか、二、三のマイナス要素はあるが、トリック部分にはなかなか優秀なアイデア(二番めの殺人の犯行方法など)がいくつも投入されている。〝ワトソンを探すホームズ〟という剣崎比留子の名探偵設定もユニークだ。
なお、著者の今村昌弘は1985年、長崎県生まれ。岡山大学卒、兵庫県在住。