田島芽瑠の「読メル幸せ」第80回

田島芽瑠の読メル幸せ

第80回


12月になりました❄️

「もうすぐクリスマスですね」という会話が増えるこの季節。なんとなく予定が無いと寂しい気がして、予定を入れなきゃと焦ります。予定がない=寂しいという風潮はやめてほしいと思いながら、そんな私もその1人なのだと思うと悲しいです……。

2018年から始まった【読メル幸せ】も今年で6年目に突入しました。私自身初めての連載で、1年、また1年と続いていく事を嬉しく思っていましたが、来年の3月をもちまして連載が終了する事となりました。もちろん寂しい想いはありますが、ここまで続けさせていただけた事に感謝しかありません。どんなに忙しい時でも、本を読むという時間を与えていただき、私の心の健康を【読メル幸せ】は支えてくれました。残り3回となってしまいましたが、最後まで皆さんに素敵な作品の魅力を伝えていけたらと思います。私の本の旅にもうしばらくお付き合いください☺️

今年最後におすすめする作品は、伊坂幸太郎さんの『死神の精度』です。

「読メル幸せ」第80回

人が死ぬ1週間前にその人物の調査に来る死神のお話。調査ののち、対象者の死に「可」か「見送り」の判断をくだし、「可」の人には翌8日目に死がおとずれる。そんな死神の仕事をする主人公〝千葉〟が出会う、6人の人生を描いた物語です。

面白い発想だな〜と思わず感心してしまいました。死神というのは一見現実味のない存在ですが、この作品では死神が登場人物に紛れて人の姿で存在しているのでリアルなんです。コールセンターのオペレーターをする女性が顧客からストーカーされているのかと思ったら、そのストーカーは有名な音楽プロデューサーで……というお話だったり(死神の精度)、ヤクザの話や密室殺人事件など、物語の内容は多種多様。そして必ず人が死ぬ。けど重すぎない。特に面白いのは、死神が音楽好きだという事。死神達は皆、音楽が好きでよくCDショップで立ち聞きしているらしい。確かに街中のCDショップでは、いつも誰かが備え付けのヘッドホンをつけて音楽に浸っている。「そんな人もいるよな」という絶妙なラインなのが面白い。

主人公が死神だからか、この作品は人間を客観的に観察しているようで面白いです。5話目の『旅路を死神』は切ない物語で特に印象に残りました。お母さんを刺してしまった息子が出てくるのですが、その理由を聞いた死神がある仮説を語るんです。それがあまりにも切なくて。これはネタバレせずに伝えるのが難しいので、是非とも本編を読んでいただきたいです。自分の見ているものだけで判断するといくつか間違いはあるもので、日々色んな〝違い〟と共に生きている。実際、もしこんなすれ違いがあったらあまりにも辛すぎるなと心に残るお話でした。

「読メル幸せ」第80回

人の考えてる事ってわからないものですよね。他人の事で悩む時間よりも自分の事で悩む時間の方が人生多いだろうし、自分の事ですらわからなくなる時があるんだから、他人の事なんてわかるわけがないのでは? 死神の千葉さんならそう言いそうです。

明日も呑気に生きようと思える、そんな作品です。

死ぬという事を、怖い事でも恐ろしい事でもなく当たり前の事なのだと教えてくれる。人はいずれ皆死ぬのだから、今を楽しめばいいのだと。なかなか呑気に思う事って難しいと思うんです。

こんな人生も悪くない!そう思えたらいいなと思います。

今年も一年ありがとうございました。また来年お会いしましょう。

良いお年を。そして素敵な本の旅を。

田島芽瑠でした。

「読メル幸せ」第80回

(次回は2025年1月中旬に更新予定です)


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