◉話題作、読んで観る?◉ 第43回「そして、バトンは渡された」
10月29日(金)より全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
2019年に「本屋大賞」を受賞した瀬尾まいこのベストセラー小説の映画化。バトンリレーのように、次々と親が替わり、家庭環境が変わっていくことになる主人公を、永野芽郁が演じている。
本作にはさまざまな親たちが登場するが、それぞれ問題を抱えている。水戸さん(大森南朋)は自分の夢を叶えるために、家族を残してブラジルへと渡った。若くしてシングルマザーとなった梨花(石原さとみ)は、経済観念が欠落している。泉ヶ原さん(市村正親)は裕福だが、父親というよりはおじいちゃんに近い。森宮さん(田中圭)は空回りしがちで、どこか頼りない。
さまざまな親のもとを渡り歩いた優子(永野芽郁)は、困った状況でも笑ってやり過ごす習性が身についてしまったものの、それぞれの親からの愛情を感じ、卑屈になることなく育った。すれ違いだらけで、問題のある家族だが、優子を通して親たちはつながっていく。優子にとっては、一人ひとりが欠かせない存在だった。
登場キャラクターの中で、いちばんアクが強いのは梨花だろう。娘に新しい洋服を買い与えて溺愛する一方、唐突に姿を消してしまう。さらに娘の一生を左右する大きな嘘までついてしまう。周囲を振り回す「悪女」役だが、石原さとみが憎めない女として演じてみせている。
田中圭と永野芽郁とのやりとりは軽妙だ。慣れない保護者という立場ながら、親らしくなろうと努める父親の視点、適度な距離感で親たちに向き合う娘の視点がバランスよく配分され、バトンリレーさながら物語は中弛みなくラストまで進んでいく。永野がピアノを特訓して挑んだ、高校卒業式の合唱シーンは見どころのひとつ。
本作を撮った前田哲監督は、垣谷美雨原作のコメディ映画『老後の資金がありません!』の公開も10月30日(土)に控えている。こちらは金銭感覚が異なる嫁(天海祐希)と姑(草笛光子)とのハイテンションなバディムービー。血のつながりのない大人たちが生活を共にし、家族という名のチームとして機能していく様子がコミカルに描かれている。どちらの映画も、新しい時代の家族の在り方を考えさせられる内容となっている。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2021年11月号掲載〉