◉話題作、読んで観る?◉ 第68回「怪物の木こり」

◉話題作、読んで観る?◉ 第68回「怪物の木こり」
監督=三池崇史|脚本=小岩井宏悦|音楽=遠藤浩二|出演=亀梨和也/菜々緒/吉岡里帆/柚希礼音/みのすけ/堀部圭亮/渋川清彦/染谷将太/中村獅童/他|配給=ワーナー・ブラザーズ映画 PG-12
12月1日(金)より全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
文=長野辰次

 共感力のないサイコパス(反社会性パーソナリティ障害)は、フィクションの世界では凶悪犯として描かれることが多いが、実社会では大企業のCEO、弁護士、外科医などにサイコパスの割合は多いとも言われている。本作の主人公・二宮も身の危険を恐れず、常識に囚われることなく事件を究明していくサイコパス弁護士として活躍する。

 本作の原作となったのは、2018年に『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した倉井眉介の同名デビュー作。サイコパス弁護士が連続殺人犯と対峙するという、犯罪サスペンス好きの食指が動く刺激度の高い内容だ。バイオレンス映画を得意とする三池崇史監督が、原作の毒性を希釈することなく映画化している。

 人間の頭部を斧で叩き割り、脳を持ち去るという猟奇的殺人事件が連続して発生する。殺人鬼が次のターゲットとして選んだのが、二宮彰(亀梨和也)だった。表向きは優秀な弁護士である二宮だが、実はサイコパスであり、邪魔者は容赦なく排除する冷酷な裏の顔を持っていた。怪物のマスクを被った殺人鬼の襲撃を間一髪で逃れた二宮は、利害関係のあるサイコパス脳外科医の杉谷(染谷将太)と共に、謎の殺人鬼を追うことに。

 一方、警視庁ではプロファイラーの戸城嵐子(菜々緒)とベテラン刑事の乾(渋川清彦)がコンビを組み、犯人像を絞り込んでいた。サイコパスコンビと警察コンビが競い合いながら、31年前に起きた児童誘拐事件に端を発する連続殺人事件の意外な真相を解き明かしていく。

◉話題作、読んで観る?◉ 第68回「怪物の木こり」

 脳科学者の中野信子氏が「サイコパス監修」として参加しており、サイコパス像は最新のものにアップデートされている。中野氏は著書で「サイコパスは多くの人を惹きつける魅力を持ち、タレント性に優れている」と述べており、そんなサイコパス像に亀梨がぴたりとハマった。笑顔を振りまく社交的な弁護士を装いながら、良心の呵責を感じないサイコパスでもあるという二面性のあるキャラクターをごく自然に演じてみせている。

 三池監督はこれまでにも『悪の教典』や『藁の楯』などのサイコパスものを手掛けてきた。『十三人の刺客』で稲垣吾郎が演じた暴君も、サイコパスキャラだったと言えるだろう。本作では二宮の相棒・杉谷に「織田信長はサイコパスだった」「サイコパスが歴史を進めてきた」と、原作にはない台詞を言わせている。「同調圧力に屈しない」「リスクを恐れない」といった特性を持つサイコパスを、三池監督は新しいタイプのヒーローとして描いている点が興味深い。

 クライマックスも原作とは異なる展開が待っている。婚約者の映美(吉岡里帆)に憎まれるほどの悪事を働いてきた二宮だが、サイコパスの哀しみと喜びが伝わるラストシーンとなっている。陽の当たらない裏道を歩く者たちを好んで描く、三池監督ならではの倒錯した愛を感じさせる。

原作はコレ☟

怪物の木こり

『怪物の木こり』
倉井眉介/著
宝島社文庫


著者の窓 第31回 ◈ 辻堂ゆめ『山ぎは少し明かりて』
# BOOK LOVER*第23回* 門脇 麦