スピリチュアル探偵 第6回
この人、視えてるんじゃ!?
「私が通ってるヨガの先生、守護霊とか視えちゃう人なんだけど会ってみない?」
友人からそう声をかけてもらったのは、数年前の晩秋のことでした。
ヨガといえばヨーガ。もともとは古代インドから伝わる心身の鍛錬法で、"解脱"を目指す修行の1つとして有名です。そんなヨガの先生が「視える」というのは、なんとなくスピリチュアル的にありな感じがします。おまけにその先生、本場インドでヨガの修行をした経験もあるそうですから、なおさら期待が持てます。
ところが、僕は当時このありがたいお誘いを、「せっかくだけど、今回は……」とお断りしています。なぜなら、僕は本物の霊能者を追い求める上で、3つのルールを設けているからです。
まず1つ目は、「占い師」ではなくあくまで「霊能者」をターゲットとすること。占い師を名乗っているならそもそも真贋を問うものではありませんし、何より数が多すぎてキリがない。そのため、「私には不思議な力があります」という人物に絞るのが基本方針。
ただし、中には占いの看板を掲げながら、その実、科学で説明のつかない冴え渡った鑑定をやってのける先生もいるので油断なりません。隠れた本物を取りこぼさないために、このあたりはある程度フレキシブルに考えるようにはしています。
2つ目は、鑑定料は一切値切らないこと。基本的に8割方はインチキだと思ってカウンセリングに臨んでいる僕は、いわば冷やかしに近い輩です。さらには仕事柄、こうしてネタにさせてもらうこともあるので、ちょっとくらい鑑定料が割高でも、そこに不平不満を言うのはなしにしよう、というわけです。
そして何より重要なのが3つ目のマイルール、本当に悩んでいる時は霊能者に会わないこと。これがこの時、ヨガの先生との面会を避けた理由でした。
〈CASE.6〉ヨガインストラクターから華麗なる転身を遂げた美魔女
激しく落ち込んでいたり、深刻なトラブルを抱えていたりする時に、うっかり自称・霊能者の口八丁にノセられるようではスピリチュアル探偵失格。自分にそんな可愛げがあるとは思えませんが、念のため、公私いずれかにトラブルや悩み事を抱えている時は、霊能者には接触しないことを僕は原則としています。
実はこのヨガの先生を紹介された際、僕は離婚問題の真っ只中にありました。度重なる妻の不貞に業を煮やし、強い失望と傷心を持て余していたこの時期の僕は、インチキ霊能者のいいカモになりかねません。
そこでマイルールを遵守し、ヨガ先生の話をひとまずスルーした僕。ところが、時を経てこの先生とのご縁が蘇るのだから世の中わからないものです。わりと最近になってから、同じ友人からこんな話が飛び込んできました。
「すごく前に、霊能力があるヨガの先生の話をしたの、覚えてる?」
「ああ、もちろん。あの時はせっかくだったのに悪かったね」
「あの先生、今はヨガじゃなくて占い師として活動してるんだよね」
「なんと、特技を生かして独立したわけか。それは面白いじゃないか」
そんなわけで、何年もの時を経てヨガ先生との面会アポイントが確定。ある週末の昼下がり、僕は神奈川県・川崎市内の某所にお邪魔することになりました。
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。