ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第143回

「ハクマン」第143回
他人の不幸フリークには
「末路」は極めて
人気のフレーズだ。

他の仕事で雑誌「PRESIDENT」を読んだ。

一見私とは対極にある雑誌であり、それより「月刊三等兵」とかを読んだ方が有益な気がする。

しかし、PRESIDENT は金持ち、もしくは金持ちになりたくて仕方がない人向けの雑誌であり、しかも金だけでなく、地位や権力まで求めているのだ。

かつて「努力・友情・勝利」を志したジャンプキッズが闇落ちして「金・地位・権力」の PRESIDENT 中年になったと言っても十分通る。

つまり、私が興味を惹かれる下品な記事も結構多いのだ。

資料でもらった号も「金持ちの街貧乏人の街」という、もはやマウントポルノと言って良い18禁特集を組んでいたのだが、それよりも目を引いたのが「2億のタワマンを買ったパワーカップルの末路」という記事だ。

私は職業を聞かれた時、相手が冗談が通じるタイプ、もしくは苦笑いで済ませてくれそうな場合は「エゴサーチャー」そして「他人の不幸ソムリエ」と答えるようにしている。

ちなみに、私のように何をして食っているかわからない人間にダメージを与えたかったら職業を聞くのではなく「何をやってるんですか?」と聞いた方が良い、その日一日「俺は一体何をやっているんだ?」と煩悶して終わること請け合いだ。

他人の不幸ソムリエはラベルに「末路」と書いてあると「ほう」と言ってモノクルをかけはじめる。

他人の不幸フリークにとって「末路」は極めて人気のフレーズだ。

しかし「人気が出る」ということは「まがい物が増える」ことを意味する。

不幸フリークが「末路」と見た瞬間クリックすることがバレてしまったため、記事でも動画でもタイトルやサムネにとりあえず「末路」と入っているものが増えたのだが、内容はとても「末路」と言えないものばかりなのだ。

  

「いろいろあったけどなんとかやってます」という、残尿のような終わり方をしているものがほとんどで、これなら「魔女の宅急便」を見た方が5億倍有意義なのだ。

フランメの魔導書がほとんど偽物なように、現在出回っている「末路」は9割偽物と思っていい。

しかし、こういった見出しやサムネに大げさなことを書いて客寄せする手法を責めることはできない。我々漫画業界もまさに似たようなことをしているからだ。

Xに漫画をアップするにしても「虐げられた悪役令嬢が幸せになる話」と「悪役令嬢を陥れたヒロインの末路」どっちのタイトルにすると言われたら後者にするし、多分その方が伸びる気がする。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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