〈第5回〉浜口倫太郎「ワラグル」スピンオフ小説 芸人交換日記

「ワラグル」スピンオフ小説

崖っぷち漫才師がお笑いコンテストを
目指す笑いと涙と戦慄の物語
「ワラグル」
刊行記念スピンオフ短期集中連載!

2月27日 from 瀬名

 ……あれから十年後(なんかこんなんあった方がいいかなと思いまして)。

 ラリーさん、お久しぶりです。瀬名です。

 ラリーさんに送っていた日記を十年ぶりに読み返してみて、あの頃のことが鮮明に頭をよぎりました。優勝する前のときって、俺もう芸人辞めようかと思うほど追い込まれていたんですね。何か当時の切羽詰まった気持ちを思い出しました。

 KOMに優勝してから、スマイリーは全国区の芸人になれました。東京に進出して、レギュラー番組もいくつももらいました。情報番組のMCも任せてもらったので毎日勉強しています。だから大阪時代のように後輩達と遊ぶこともなくなりました。ちょっと寂しいですけどね。一線で活躍するには、芸人も教養を身につけないとダメな時代ですから。

 ラリーさん、聞いてください。俺、『スター全員集合』のMCに抜擢されたんです。百人以上の芸能人が集まるあの番組です。この番組のMCができたら、一流のMCだと言われています。ラリーさんが評価してくれた俺のMC能力を、ここのスタッフが認めてくれたんです。なんだか感無量でした。

 ただ昔はレギュラー番組を持つぐらい売れたら安心できると思っていましたが、そんなことはありませんね。上に行けば行くほど、この世界は化けもの揃いです。いつ視聴者に飽きられるか、いつレギュラー番組がなくなるか。

 最近ではYouTubeがテレビよりも人気になってきて、テレビ自体が瀬戸際になっています。俺もYouTubeをやらないとだめかなと焦っています。ほんと悩みは尽きません。ですが日記を読み返して十年前のことを思うと、この悩みも愛(いと)おしく感じてきます。

 そうそう、ラリーさんに近況報告をするためにこの日記を書いているんじゃありません。ラリーさん、一つ頼みがあります。

 優勝後、ラリーさんは俺にこう言いましたよね。優勝者の特権としておまえが俺を付かせたい芸人があらわれたら、そいつに俺のことを紹介してもいいって。ただし俺が付いて、決勝進出できるとおまえが思ったコンビだけだと。味園さんが、俺にその権利を使ってくれたからスマイリーは優勝できました。

 あれから十年間、俺はその特権を使いませんでしたが、一人ぜひ付いて欲しいやつがいます。

 ラリーさんご存じですか? それは『リンゴサーカス』の加瀬凜太です。

 いや、愚問でしたね。ラリーさんならばご存じですね。死神ラリーはお笑いのことならばなんでも知っているんですから。その加瀬凜太に付いてやって欲しいんです。

 ただKOMの決勝進出を狙うどころか、あいつは今リンゴサーカスを解散して相方すらいません。芸人として崖っぷちの状況に追い込まれています。十年前のスマイリーよりも危機的な状況です。

 ラリーさんが付いて決勝進出できるコンビという条件からは外れますが、そこは黙認してもらえないでしょうか。

 加瀬を救えるのは、日本一の放送作家であるラリーさんしかいません。ラリーさんならばどうにかしてくれると信じています。

 もう加瀬にはラリーさんのことを教えたので、この日記をラリーさんが読む頃には、加瀬はラリーさんを訪ねているでしょう。

 あのときスマイリーがラリーさんのおかげで優勝したように、加瀬が今年のKOMで活躍する姿を楽しみにしています。

 それでは。

(おわり)

 


「ワラグル」スピンオフ小説 芸人交換日記 アーカイヴ

ワラグル

『ワラグル』
浜口倫太郎

 浜口倫太郎(はまぐち・りんたろう
1979年奈良県生まれ。漫才作家、放送作家を経て、『アゲイン』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。著書に『シンマイ!』『廃校先生』『22年目の告白─私が殺人犯です─』『AI崩壊』『お父さんはユーチューバー』など多数。
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