『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ/著▷「2026年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

時代が追いかけてくる小説
朝井リョウさんが今年に入って受けられたインタビュー取材で、こんなことを語っていました。
──この作品で書いたことと合致するような出来事が、こんなにすぐいっぱい起きるとは、書いている時にはあまり考えていなかった。
本作が日本経済新聞夕刊に連載されていたのが、2023年4月から24年6月にかけてです。23年4月といえば、日本中がコロナ禍による息苦しい行動制限からようやく脱しようとしていた頃でした(感染症5類への移行は5月8日)。
それ以来、止まっただけでなく、ゆがんでしまったように感じられていた時の流れは加速度的に速まり、いまここで見ている風景を当時思い浮かべられた人はどれだけいるでしょうか。編集者として朝井さんの連載原稿を誰よりも早く読めるという喜びをかみしめながらも、いったいここに何が描かれているのか、当時はまったく想像もつかなかった自分の感度の鈍さを顧みることが、昨年9月の刊行からますます増えていただけに、インタビューでのこの言葉は衝撃的でした。
本作をひとことで言うとすれば、時代が追いかけてくる小説、とでもなるでしょうか。時代を予言する小説、ではけしてなく。
予言というと、どこか大局を見据えて理詰めで先を見通すといった意味合いが濃いように思われるのですが、本作で描かれているのは、日々増殖し続けているカオスです。朝井リョウという作家の眼は、そのカオスの中に息づく、いくつもの蠢動をいやでも見てしまうのかもしれません。そのうごめきがいつの間にか奔流となって、これまで確固としてあったものを喰い破っていく。そして、小説の世界が、現実の世界を喰い破っていく。だから時代が小説に「追いつく」のではなく、リアルタイムで時代が小説を「追いかけてくる」ように思われるのです。大げさではなく唯一無二の読書体験を、あなたもぜひ!

──日本経済新聞出版 苅山泰幸




