『小説王』文庫化!特別対談 早見和真 × 森 絵都「作家の覚悟」
改稿は自我を薄めていくプロセス
──今回の『小説王』文庫化に際しては、どの程度の加筆修正を行なわれたのでしょうか?
早見 僕、けっこう直すタイプなんですよ。作品を読み返すと毎回、粗や不満が山ほど見つかるので、改稿に手を抜いたら自分は作家として終わりだなと思っています。森さんはそういうことはないですか?
森 私も文庫にする際にはかなり修正します。あとから直すのはズルいって考え方もあるでしょうけど、文庫版で初めてその作品を読む人も大勢いますから、その時点での最善を尽くそうと……というか、ゲラで読み返すとどうしても直したくなってしまいますよね。
早見 デビュー作の『ひゃくはち』を、3年後に文庫にするために読み返したときは、あまりの未熟さに赤面しました。思わず担当編集者に、「どうして当時、もっと厳しく言ってくれなかったんですか」とぼやいてしまったほどで(笑)。その作品に対する初期衝動のようなものは詰まっているのかもしれませんが、どうしても稚拙に見えてしまう。
森 改稿作業というのは、もちろん文章の精度をあげる目的もあるんですけど、自我を薄めていく作業でもあると思うんですよ。何度も何度も原稿と向きあっていくことで、どんどん自分が透き通っていく感覚が、私は嫌いではないですね。ちなみに今回の『小説王』は、ご自身の中ではどういう評価なんですか?
早見 決して満足はしていないです。でも、次につながる作品ではあると思いますし、今の時点でできるかぎりの努力はしたつもりです。何より、こうして森さんに解説を書いていただけたことで、ひとつ満たされたように感じています。
森 いやいや、もっと自信を持つべき作品だと思いますよ(笑)。
早見 憧れている先輩に認めていただけるのは、やはり作家として大きなことですよ。本当の意味で自信の持てる作品を、一刻も早く書けるよう、引き続き頑張っていきたいと思います。
早見和真(はやみ・かずまさ)
1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』でデビュー。同作は、映画化、コミック化されベストセラーに。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞。他の作品に『6 シックス』『ぼくたちの家族』『95』などがある。
森 絵都(もり・えと)
1968年東京都生まれ。シナリオライターを経て、「リズム」で第31回講談社児童文学新人賞を受賞し、91年、同作で作家デビュー。『カラフル』『DIVE!!』『永遠の出口』ほか著書多数。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞。17年『みかづき』で第12回中央公論文芸賞を受賞。
撮影協力/日本出版クラブビル クラブライブラリー)
HKT48田島芽瑠の「読メル幸せ」も!
▶︎第1回 森絵都さん『カラフル』
▶︎第8回 早見和真さん『小説王』