ショートストーリー『ロボット・イン・ザ・パンデミック』全文先行公開!
ボニーがエイミーを、次いで僕を、さらにタングを見て、呆れ顔で目をぐるりとさせた。
「たぶん、タングの頭の中にはもうやりたいことがあるんだけど、ふたりにだめって言われる気がしてるんだよ」
僕たちは揃ってタングに目を向けた。本人はかたくなに足元だけを見続けている。
「そうなの、タング?」エイミーが問いかける。
タングは少しためらってから、うなずいた。
「だめかどうかは話してみないとわからないわよ」
「僕……僕、病院が好き。病院にいる人たちを助けたい」
「それは絶対にだめだ」
僕の返事に、皆が咎めるような身振りをした。
「わかった、わかったよ。ちゃんと話を聞くよ。どういうことか、説明してくれ」
タングはよいしょと立ち上がると、さっきまでのエイミーを真似するように行ったり来たりしながら考えた。
「病気になって入院しないといけない人たちがいる。でも、誰も会いにいけない。自分たちもうつっちゃうかもしれないから。病院の看護師さんとかお医者さんはたくさんの人を助けなきゃならなくて、ものすごく忙しいから、病気の人全員のそばにずっとついてることはできない……」
「そうだね……」
「だったら僕が病気の人たちのそばにいて、本を読んであげたり、冗談を言ってあげたり、ティッシュとか取ってきてあげたりすればいいと思う。僕、病院で働く人たちを助けられるよ。役に立つよ。エイミーがボニーを産んだ時も、僕すごく役に立ったよね?」
「うん、役に立ったわ」
エイミーは答えると、僕と目を合わせ、部屋の外に来てという仕草をした。
「タングに付着したウイルスが誰かに感染する可能性はある。それでもタング自身は感染しないから、人間と比べれば抱えるリスクは半分だわ。あの子の言うとおり、たしかに助けになれるかもしれない」
「だけど、タングにうまくやれるか? あの子の中身はまだ子どもだよ」
「ベン、タングの夢は助産師になることよ。きっといろいろ勉強にもなるわ」
「そうだけど……」
「タングをすべてのことから一生守り続けることはできないのよ、ベン。あの子ならみんなの役に立てる。あなただってよくわかってるはず。病院もボランティアを募っていることだし……」
「だけど、本人も言ってただろ。ものを運んだりって作業はタングには無理だ」
「そうね。でも、あなたならできる」
タングを受け入れてもらうには、弁護士としてのエイミーにビデオ通話で関係各所の人々をうまく説得してもらわなくてはならなかった。ただ、世界的な危機に直面している今は平時のルールにとらわれている場合ではないのだろう。ほどなくして僕とタングは大勢のボランティアに加わることになった。僕は動物病院にあった器具や消耗品で役に立ちそうなものを提供し、指示に従って地域の病院などに配布した。
タングは社会的距離を取ることを求められないさまざまな仕事を任された。本人がもともとやりたくて、だがうまく言葉で説明できなかった、皆の士気を高める応援役も然りだ。しかし、タングが特に気に入ったのは意外な仕事だった。手指用の消毒液のボトルを手に病院のロビーに立ち、訪れる人々がちゃんと消毒するように目を光らせる役目だ。直接触れずに手の消毒ができるハンズフリーのボトルがいたるところに置いてあるのだから、やることなどたいしてなさそうな気もしたが、病院からは、皆に手を消毒してもらうのに、あれほど効果的な方法はないと言われた。何しろ身長一二〇センチほどのロボットが大声で叫びながら追いかけてくるのだから。
「ウイルスに気をつけて! いりょーげんばを守ろう!」
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