里見蘭

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第136回
 取調べ映像を裁判員に見せると、それは他の証拠よりも裁判員の判断に過大な影響を与え、その映像だけで被告人が犯人か否かを判断してしまう傾向がある。現実に即して単純化すれば、取調べで被疑者被告人が「自白」する場面さえ裁判員に見せることができれば、検察側が有罪心証を得るのはたやすいということだ。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第135回
「はい。弁護人は今、問題となった証拠に違法収集証拠排除法則を適用しようとしていますが、まさしく弁護人が示したように、憲法及び刑訴法は特別に規定を設けて自白の証拠能力に厳しい規制――自白法則――を設定していることを考えると、自白の証拠能力はその範囲で否定するのが法の趣旨であると解するのが自然であって、それを超えて違法収集
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第134回
 公判前整理手続はたんに公判の期日等を決めたり調整したりするだけの場ではない。刑事裁判において最も重要な証拠の採用を巡り検察側と弁護側との攻防は始まっている。能城のようにこれまで検察と一体化したような有罪判決を数多く書いてきた人間が裁判長なら、弁護人は裁判官とも闘わなくてはならない。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第133回
 都築は書記官に目を向けた。「記録してるか?」「え……」いきなり水を向けられた男性書記官は動揺した。「これまでのやり取り、すべてちゃんと記録してるか訊いている」
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第132回
 八月六日。東京地裁の法廷に、裁判長を始めとする三人の裁判官と書記官、三人の公判担当検事、志鶴、都築賢造、田口司の三人の弁護団の他、被告人である増山淳彦本人も初めて出頭していた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第131回
 書類を読んでいるだけで息が詰まりそうになる。起訴前、志鶴は一度岩切本人と直接対峙した。結果的には失敗したが、岩切が増山の身柄の勾留を裁判所へ請求するのを防ごうと東京地検の執務室へ乗り込んだ。岩切はその場で、むごたらしく命と尊厳を踏みにじられた綿貫絵里香の理不尽な死を悼み、犯人への激しい憤りを志鶴にぶつけてきた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第130回
「漂白」目次  類型証拠として検察官に開示請求した証拠のリストと開示された証拠とを突き合わせて漏れがないかを確認し、実際に開示された証拠、該当する証拠なしと回答されたものについてはそれに合
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第129回
 証拠資料が入った段ボールを会議室へ運び込むと、三浦俊也はまず検察官の証明予定事実記載書に目を通した。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第128回
 ブルーレイディスクをトレイに載せデスクトップパソコンに挿入。息をこらして画面を見つめる。星栄中学校で行われたソフトボールの試合映像。三脚で固定されているらしきカメラは、ホームベースの背後からグラウンドを捉えている。映像は、後攻のチームが守備位置についたところから始まっていた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第127回
「漂白」目次 「あと気になるのは目撃証言だな」都築が言った。「検察は、増山さんの目撃証言を請求したが、あれだけの大きな事件で大量の捜査員を投入したんだから、事件直後には大量の目撃証言があっ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第126回
 ノートパソコンにワープロソフトを起(た)ち上げ、「1 被告人について」と打ち込んでいく。検察の主張を崩すストーリーの大筋が、志鶴と都築との間で一致を見た今、志鶴が欲しいのは、真犯人であるはずのトキオにつながる証拠だ。が、捜査機関がどんな証拠を持っているかわからない以上、この段階で絞り込むのは不可能だ。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第125回
「漂白」目次  志鶴と田口は静かに対峙(たいじ)した。  トキオの存在を聞いたうえでのこじつけではない。約半年の間を置いて起こった、二件の殺人死体遺棄事件。警察はなかなか被疑者を絞れ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第124回
 都築の声が、法廷で弁論するときのように熱を帯びてきた。志鶴の胸の鼓動が高まる。田口は一瞬気圧(けお)されたようだったが、すぐに無表情の仮面をつけ直した。「ではなぜ犯行現場に、増山氏の吸い殻が?」「そこだ」都築は二つ目の菓子を頰張り、ぽりぽり咀嚼(そしゃく)しながら考えた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第123回
「漂白」目次 「③の目撃証言、これ、怪しいよなあ」都築が言った。「増山さんが逮捕されたあと、改めて現場付近で聞き込みをしたら、女子中学生をつけている増山さんを見た人物が現れたって──増山さ
第七章──焦点 1 コンビニのドアが開いて、一人の少女が店内に入ってくる。夏物のカジュアルを着た、中学生くらいに見える華奢(きゃしゃ)な少女だ。彼女は急ぐ様子もなく、店内を見渡して、右手に向かって歩いていき、画面から消えた。 
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第121回
 その試合から九日後、鴇田は星栄中ソフトボール部7番の彼女──死体発見後の報道で綿貫絵里香(わたぬきえりか)という名を知った──を犯した上で殺害した。試合の翌日から、会員となったカーシェアリングの車を毎回変えて星栄中を見張り、彼女を尾行して自宅と通学ルート、毎日の行動パターンを観察し、計画を立てた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第120回
「漂白」目次  インスタブックの新しいアカウントで女たちとセックスしながらも、鴇田は浅見萌愛を忘れることができなかった。たんにセックスのみならず、殺人というそれまで知らなかった快感が加わったことによ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第119回
「漂白」目次    荒川河川敷を出ると、ふだんは聴かないAMラジオをつけ、一時停止や法定速度をきちんと守って車を走らせながら、②と③について思考を巡らせる。  ②。警察が優秀で