# BOOK LOVER*第2回* 白石和彌

# BOOK LOVER*第2回* 白石和彌

 高校時代、初めて手に取って以降、立花隆さんの本はよく読んでいました。大物代議士の金脈を研究したかと思えばサル学に関心を向ける。とにかく幅がある。興味を広げることで人間とは何か、その外郭を見つけたいとどこかで書かれていました。映画作りで自分が心掛けていることでもあります。

『青春漂流』は、自分が何者でもなかった二十歳頃、古本屋で見つけました。取材対象は、職も立場も違う十一人の若者です。いずれも決まったレールを外れ、惑いながら自己を確立する渦中にある。ひたすら肉を切る精肉職人が登場します。早朝から深夜まで肉と対話する。強烈ですよ。

 立花さんは執筆時四十代半ばだった。やりたいものを見つけた時の若者のエネルギーに強く心を動かされている。クレバーな著者にしては珍しい。

 当時は、映画の世界に進むことはドロップアウトするようなものでした。躊躇はあった。でも、本を読んで、そこにやりたいものがあるとしたら後先考えずに進むべきだと思ったんです。その後、若松(孝二)監督のもとで下積みを重ね、三十代半ばで独り立ちするまで、何度か読み返しています。俺もがんばらなきゃという同世代目線です。

 一昨日、十年ぶりに本を手に取りました。彼らを心底羨ましいな、と感慨深かった。若松監督が亡くなって、数年前に監督の青春時代をモチーフとした作品を撮りました。そこで俺の青春は終わったんだろうな……。執筆時の立花さんの心境に触れた気がしました。

 


青春漂流

本の紹介
『青春漂流』
(講談社文庫)
一度は挫折し方向転換した若者たち11人のドキュメント。ソムリエの田崎真也氏(当時25歳)など現在も活躍する登場人物も多い。単行本は1985年刊行。

白石和彌(しらいし・かずや)
1974年生まれ。北海道旭川市出身。『凶悪』『孤狼の血』を手がけた映画界のトップランナー。今年も『仮面ライダーBLACK SUN』の配信を控える。

〈「STORY BOX」2022年2月号掲載〉

【著者インタビュー】蝉谷めぐ実『おんなの女房』/江戸を舞台に、歌舞伎の女形とその女房の2人なりの関係を描く
採れたて本!【歴史・時代小説#01】