# BOOK LOVER*第5回* けんご

# BOOK LOVER*第5回* けんご

 大学3年の夏。鬱陶しいほど暑い夏。身体も心も腐り切った夏だった。小学3年から野球を続けていた僕は、13年目にして努力を忘れていた。やる気は皆無だった。何かと理由を付けて練習をサボる毎日。それがどれだけ恥ずかしいことか、この文章を書きながら痛感している。

 当時から、小説を読むのは好きだった。暇があれば書店に足を運び、学生の少ない財力で悩みながら小説を購入していた。そしてこの日、僕の宝物となる作品と出会ったのである。『風が強く吹いている』だ。年始の風物詩として欠かさずチェックするほど、僕は「箱根駅伝」が大好きだ。出場できるチーム数は、たった20チーム。生半可な努力では届かない夢舞台。この作品は、そんな華やかな舞台を目指す〝無名の大学〟の話である。しかも、このチームには陸上競技未経験者もいるのだ。普通に考えれば、無理だ。誰だって諦める。しかし、何回折れても立ちあがろうとする登場人物たちの、不屈の闘志にすっかり心を奪われてしまった。

 ……自分は何をやっているのだろう。読了後、酷く頭を抱えた記憶がある。そして、野球を最後まで全力でやり切ることを決めた。物語に心を動かされ、行動まで変えてもらったのである。そんな体験は初めてだった。

 今でも挫けそうなときは、読み返している。『風が強く吹いている』は、僕の人生を好転させた。次は小説紹介クリエイターとして、多くの人に届けることが使命だと思っている。

 


風が強く吹いている

『風が強く吹いている』
三浦しをん
(新潮文庫)
箱根駅伝に挑む大学生たちの青春を描き、映画・TVアニメ化もされた直木賞作家・三浦しをんの長編小説。

けんご
月間20冊以上の本を読む社会人2年生。素敵な本との出会いの場を作るべく、フォロワー数28万人超の Tik Tok をはじめ様々なSNSを駆使して活動中。『けんご大賞』選考委員長(選考委員1人)。

ワカレ花

『ワカレ花』けんご 著(双葉社)

埋もれていた名著から新進作家の掘り出し物まで、さまざまな小説を「TikTok 売れ」させてきた小説紹介クリエイター・けんごによる注目のデビュー小説。花をモチーフに、四季折々の恋模様を柔らかく、鮮やかに描き出した8篇を収録。

〈「STORY BOX」2022年5月号掲載〉

◎編集者コラム◎ 『舌の上の散歩道』團 伊玖磨
若松英輔「光であることば」第12回