けんご@小説紹介さん インタビュー連載「私の本」vol.16 第1回

けんご@小説紹介さん

「けんご@小説紹介」さんが TikTok で取り上げた小説が、次々と話題になるという現象が起きています。筒井康隆さんの『残像に口紅を』は、なんと8万5千部が緊急重版されました。いま、「この人が紹介すれば本が売れる」と出版界で大注目されているけんごさん。その活動と本への想いとは。


約1年前からSNSで小説を紹介し始める

 TikTok は約1年前から始めて、現在までに200冊くらいは取り上げていると思います。自分が『残像に口紅を』を紹介したことによって、何万部もの部数が重版されたと聞いたときは、僕自身も「そんなことあるのか」と驚きました。動画の再生回数も、いまでは690万回を超えています。

 この小説では物語が進むにつれて「あ」から「ん」までの言葉が、ランダムに消えていきます。たとえば「あ」が消えれば、「あなた」や「愛」という言葉や概念もなくなってしまう。「失って初めてその言葉の大切さがわかる」と、そう動画では語りました。 出版社の方や書店に勤める方たちからは、「若い世代が本を手に取ってくれるようになって良かった」という声をいただいています。

若者は読書離れしているわけではない

「若者の読書離れ」とよく言いますが、30年前に出版されたこの『残像に口紅を』が再び支持されて、こうやって売れるのを見ると、そんなことはないんじゃないか、と僕は感じます。

 面白い本を知る機会さえあれば、若い人たちも本を手に取ってくれるということが、今回は証明されたのではないでしょうか。僕は、そのきっかけ作りができればうれしいと考えているんです。

 よく100万部とか200万部売れたベストセラー小説だから「みんな知っている」と思いがちですが、決してそんなことはありません。読書好きの方たちにとっては有名でも、興味のない人にとっては聞いたこともない作品なわけです。

 でもそれってあたり前といえばあたり前で、僕は野球が好きだからメジャーリーグのエンゼルスの4番バッターは誰か言えますが、答えられない人はたくさんいるでしょう。

 最近の10代は本屋で小説が購入できるという事実すら知らなくて、僕が紹介した本についても、「どこで買えるんですか」とDMで聞かれたりしますからね。これは本当に笑いごとじゃなくて、そういう情報というのをきちんと提供していくことが大事だと思っています。

けんご@小説紹介さん

想像力をかき立てられる小説ならではの魅力

 本を紹介するツールとして TikTok を選んだのは、中高生の視聴者が多いからです。TikTok はおすすめ機能によって自動的に動画が流れてくるので、サムネイル画像を自発的にクリックする YouTube よりは、多くの人の目に留まる機会があるのでは、と考えました。

 そうやって始めてみたら、3~4回目に取り上げたこがらし輪音さんの『冬に咲く花のように生きたあなた』という本が、いきなり重版になったんです。

 漫画や映画を僕みたいに紹介されている方はけっこういるんですけれど、小説というのが新しかったのでは、とは思っています。他のエンタメに比べると、取っつきづらいという印象が小説にはあるから、当初は僕自身もフォロワー数や視聴数はそんなにいかないだろうと低く見積もっていたんですよ。

 でも、結果的に多くの人が興味を持ってくれたので、それはもう素直にうれしいですね。小説の最大の魅力は、文章だけで映像がないから、想像力を大いに掻き立てられるところ。登場人物の声や表情も、100人読者がいれば100人とも違うイメージを抱くし、もちろん読後の感想も違ってきます。

初心者目線を大事にして本を紹介

 いま僕には26万人くらいのフォロワーさんがいますが、ずっと一貫して小説が苦手とか、関心がないという人に向けて発信してきました。僕の動画によって小説に興味を持ってもらって、小説ってこんなに面白いんだ、と知ってもらえれば、と。視聴者は僕より少し年齢が下か上ぐらいの方たちが主流で、そのうち約8割は女性ですね。

 そんな僕が本を紹介する基準はとてもシンブルで、自分がいいと思うか、面白いかどうかだけです。有難いことに最近は多くの出版社から献本をしていただいているのですが、そこだけはブレないようにしています。

 初心者目線を大切にしているので、紹介するときも「超有名作家さんの本」といったようなワードは必要なくて、それよりは物語の魅力そのものをきちんと伝えることが一番大事だと考えています。

次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/浅野 剛)

けんご@小説紹介
小説紹介クリエイター。TikTokやInstagramなどSNSを中心に活動中。

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