けんご@小説紹介さん インタビュー連載「私の本」vol.16 第2回

けんご@小説紹介さん

幼いころから野球ひと筋で、小説を読み始めたのは大学生になってからというけんごさん。印象深かった小説との出合いがあり、次第に本に魅了されていきました。SNSの動画をつくる際に大事にしているのは「物語の本質をつかみ、中高生の心に響く言葉を使うこと」だと言います。


実業団で野球をやる兄に憧れて育った

 僕が小説を手にするようになったのは、大学生になってからです。家族など周囲にも本を読む人はいなかったし、幼いころからとにかく野球に夢中でした。

 僕にはふたりの兄がいて、10歳上と8歳上でかなり離れているんです。なかでも2番目の兄は実業団の選手としていまも活躍しているほどで、「お兄ちゃんみたいになりたい」と追いかけて、追いかけて、野球をやり続けていました。

 兄は現在30歳で、年齢的にはそろそろしんどい時期だと思いますが、まだ選手を続けていて、ひとつの世界で頑張り抜く姿にはいまも憧れています。

本は極めて「コスパのいい」趣味

 僕も高校では甲子園を目指し、大学は野球のスポーツ推薦で入学しましたが、そこにいるのは全国の強豪校で活躍していた人ばかりで、自分には無理だ、と次第に感じるようになりました。それでも入部したからには、大学の4年間はまっとうしよう、と。

 大学時代の野球の練習も厳しかったのですが、それでも高校生のときに比べれば少し自分の時間が取れる状態だったので、なにかやりたいと考え始めるようになったんです。

 本は一度買えば読み終えるまでに多くの時間を潰せるし、その意味でコスパがいいなと思って、初めは手に取りました。いまでこそ読むのも速くなりましたが、当時はかなり時間がかかる状態だったんです。

 それで一番初めに選んだのが、東野圭吾さんの『白夜行』です。小説がドラマ化されたりしていたので、以前から東野圭吾さんという名前だけは知っていました。文庫版は860ページもあったから大丈夫かな、という想いもあったけれど、一気に読み進めることができた。それですごく達成感を得られたんですね。

けんご@小説紹介さん

 僕はもともと映画など他のエンタメも好きでしたが、そのときに自分の肌に合うものを見つけた、という感覚があったのを鮮明に覚えています。

 でももし、初めて読んだのが『白夜行』ではなかったら、いまのようにはなっていなかった可能性もありますね。

 それ以降は宮部みゆきさんの『火車』とか、人気小説を少しずつ読んでいきました。ジャンルとしてはミステリー作品は基本的に好きで、あとはスプラッターものとかですかね。人間って、恐いもの見たさという部分もありますし、ニュースなどでも人の不幸が好きという側面は誰もが持っているのではと思います。

小説に興味のない中高生に響く言葉

 そうやって読書が身近な存在になっていたので、野球部を引退した大学4年生の11月から、TikTok を始めました。野球ではないもので、同じように一生懸命になれるものを見つけたいとも思っていた時期だったので、タイミングも良かった。

 動画を上げる際に一番時間がかかるのは、脚本です。小説の本質をつかんで、さらに読書初心者の人たちに魅力を伝えるにはどうしたらいいかと考えながら、パソコンのメモ帳に一言一句、すべてを書き起こしていきます。5 時間くらいでできるときもあれば、何日もかかってしまうときもありますね。

 一番考えるのは、小説に興味がない中高生に響く言葉はなにか、ということ。単に「面白い」とか「感動」といった言葉はなるべく使わないようにしています。

 綾崎隼さんの『死にたがりの君に贈る物語』は人を救える力を持つ作品だと本気で思っているんですが、そのときは「推し」という、若い人たちに届く言葉を使いました。文章も温かみがあって、綾崎さんの小説はすべて好きです。

魂の小説である『余命10年』の衝撃

 それ以外にも魅力的だった小説はたくさんありますが、とりわけ印象深かったのは小坂流加さんの『余命10年』ですね。

 20歳の茉莉(まつり)は不治の病にかかり、余命10年だと知ります。小坂さんは、この小説が発売される3ヶ月前にご逝去されていて、一番始めは自費出版だったんです。

 この本が闘病中に書かれたもので、著者はもう亡くなっているということを僕は読了後に知って、すごく衝撃を受けました。 この小説はフィクションという形は取っていますが、作者自身の本物の想いが込められた、まさに魂の小説と言えるのです。

(次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/浅野 剛)

けんご@小説紹介
小説紹介クリエイター。TikTokやInstagramなどSNSを中心に活動中。

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