「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第4回
4.「タタタッと多々、言葉」
最近、僕の前には、気になる言葉が多々現れます。例えば『皮膚』です。この字面では少々生々しさと物々しさが醸し出されますが、ひらがな表記の『ひふ』は何だか愛嬌のある印象へと変化します。それに加えて口から発音してみると、全身の力が抜けていくお間抜けな感じがするではありませんか。さらに、ひふひふ、なんて二回重ねようものなら、かわいさ倍増人気急上昇です。ヒフヒフプリンというポムポムプリンの色違いが新登場したとしても何ら不思議はありません。なんてサンリオリーでピューリーな言葉なのでしょうか。
しかしながら、言葉は使われる場所でその雰囲気は引き戸を開けるが如くガラリと変わります。例えば、白衣を着た怪しいマッドドクターのような風体の男が鋭いメスを持ちながらにやけ顔で「……皮膚」と一言、言ってきたならば、こっちは膝ガクガク、肘ガクガク、肩ガクガク、身体ガクガクオーケストラを結成してしまいます。ところが、前出のヒフヒフプリンがちょこちょこと歩いてきて、にっこり笑顔で「ヒフフフ〜、皮膚〜」なんて言ってきたら、とてもかわいいですよね……いや、怖いか。余計怖いか。
その他にも気になる言葉はタタタッと多々、現れます。『言祝ぐ』です。ことほぐ。お祝いを言うという意味だそうです。意味もとても喜ばしく縁起がいいです。ぜひ言祝がれたいです。意味もさることながら、響きも良い。やはりその秘密は『ほぐ』ですかね。ほぐほぐ、なんて二回重ねようものなら、かわいさ倍増人気急上昇です。なんかこう、ふっくらしたハリネズミのキャラクターの愛称のような感じがします。まあ、理由は単純にハリネズミの英名がヘッジホッグだからだと思いますが。
ぐうたらハリネズミのホグホグは毎日毎日、木のウロでぐっすり居眠り。雨の日は雨宿りのため、晴れの日は日焼け防止のため、風の日は体のハリがガサガサうるさいため、雪の日は寒いため。とにかくホグホグはいつだって丸まって動かない。
そんなホグホグを見かねたホグホグの仲間たちは、いろんな方法で彼をウロの外へ連れ出そうと試みます。
うさぎのギルデロイは力持ち、ホグホグの針を引っ張ってみます。うんしょ、よいしょ、うさしょ。いくらギルデロイが引っ張ってもウロの中で大きくなりすぎたホグホグは引っかかって外に出すことができません。ギルデロイ失敗。
子ぐまのマルコは賢い、泡立草という草をもみもみ、泡立たせます。その泡を利用して、ウロからホグホグをつるんと出す計画。ホグホグの針が木の内側に刺さって、うんともすんともいわない。マルコ失敗。
ふくろうのサンデイは口が達者。上手いこと言って、ホグホグ自らウロから出てきてもらう計画。あっちに気持ちのいい原っぱあるよ。あっちのあっちには冷たくて美味しい湧水あるよ。あっちのこっちにはおもしろい形の岩あるよ。あっちこっちに綺麗な蛍が飛んでる湿地があるよ。
むくり。ホグホグがこちらに顔を向けました。ホグホグはサンデイの説得に応じようとします。ホグホグは「どんな形なんだ?」と興味しんしん。おもしろい形の岩が気になってる様子です。
よいしょ。ザクっ。ああ……。針が木の内側に刺さってうんともすんとも動けなくなりました。マルコの時と全く同じ光景が広がり、周りの仲間たちは何だか時間を無駄にしたような気がしています。サンデイ失敗。やる気も削がれ、みんなへなへなと地面にへたり込んでしまいました。そんな時、彼が現れました。
ラブラドールレトリバーのヒフヒフプリンがちょこちょこっと歩いてきました。そして口をすぼめてヒフフフと笑いながら言いました。
「トゲトゲのいい皮膚〜」
ホグホグは怖くて怖くて、体が縮み上がり、一回りも二回りも小さくなってしまいました。そんな小さくなっているホグホグをギルデロイとマルコ、サンデイは優しく木のウロから外に運び出しました。ようやくホグホグは外に出られました。みんなで「よかったね、よかったよ、よかったな」の言祝ぎ合いをしました。
その姿を見たヒフヒフプリンはずいっと一歩、近づいてきました。みんなは警戒します。ヒフヒフプリンは「ヒフフフ、どんな形なの〜?」
なんだ、ヒフヒフプリンも面白い形の岩が見たかったのか。みんなほっと一安心。サンデイは「じゃあ、みんなで見に行こうじゃないか」と言いました。ホグホグは「行きたい!」と言いました。ヒフヒフプリンは「わ〜い!」と言いました。ギルデロイは「行こう!」と言いました。マルコは「僕はいいや、みんな楽しんで」と言いました。マルコはそういうところがあるやつでした。
ということで、マルコをのぞいたみんなで、面白い岩を見に行ったのでした。果たして面白い形の岩はどんな形だったのでしょうか。結構ハードルは上がっていたようでしたが、その形を見た彼らは三日三晩、腹を抱えて笑い続けたそうです。それはそれは幸せな時間だったそうです。
一方その頃、子ぐまのマルコは母ぐまのクリスティのお腹の上ですやすやと眠っていたそうです。それはそれは幸せな時間だったそうです。
平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。