御木本あかり『やっかいな食卓』

御木本あかり『やっかいな食卓』

家族って面倒……から全てが始まった


 コロナ禍に襲われて早二年半。マスク着用、飲食・外出を控え、人とは距離を置く、等々あれやこれや。私達は日常を制限され、なにげない普通の日々がいかに貴重だったかを思い知らされたのでした。当たり前過ぎて考えもしませんでしたが、人と語らい、楽しく食事をするって、人として生きる大事な要素だったのですね。
 もう一つ腹立たしいのが、「あんたは高齢者だよ」と明快に突きつけられたことでしょうか。なにしろ毎日、メディアや専門家の先生や知事さん達が「65歳以上の高齢者は~」と、声高々に線引きするのですもの、いくら呑気者でもさすがにいじけます。パンデミックの罪は海より深いのです。

 でも、冷静かつ客観的に齢を数えてみれば、「どうやら高齢者」であることは否定できない。重ねてきたウン十年、確かに十分長いし、世の中は変わった。老け顔にもなりました。
 その大半をボーッとうっかり生きてしまったと反省しきりですが、失敗を繰り返しながら、私なりに、娘も妻も母もやり、嫁も姑も体験してきた。
 ですから、娘が抱く親への反発も、夫に対する妻の苛立ちも、報われない母の思いも、それぞれしみじみ理解出来る。嫁の辛さも姑の悲しみも、我がこととしてよく分かります。

 家族って面倒なんですよね。「家族でいる幸せ」なんてきれい事では済まされない。身近な分、煩いしうっとうしく、一人だったらどんなに気楽だろうと、私だって幾度思ったことか。
 でも、いざ困った時、行き詰まった時、味方でいてくれるのも家族なんですね。頼りにはならないかもしれないけれど、一生懸命、本気で心配してくれる。
 私事ですが、この二年で実母と義母を見送りました。母とも、姑とも、それこそいろいろありましたが、不思議なことに今は「ありがとう」の一言しか思い浮かばない。この心境こそ人生の滋味が分かってきた、ということだとしたら、歳をとることも、決して悪いことばかりではなさそうです。

 心の奥に少しずつ溜めこんできた、これら幾多の経験や複雑な思いが、長い時間掛かってフツフツ静かに発酵し、できあがったのが、小説『やっかいな食卓』です。
 そこに、世界中で私が味わってきた料理の話をたくさん入れ込みました。美味しいものは、誰をも楽しくするし、自分で言うのもなんですが、料理はちょっと得意です。
 発酵が上手くいって、心地よい美酒になっていればいいのですが。
 お試しいただければ、嬉しいです。

 


御木本あかり(みきもと・あかり)
1953年、千葉県出身。お茶の水女子大学理学部卒業後、NHK入局。夫の海外転勤で退職し、その後通算23年、外交官の妻として世界9カ国で生活。本名・神谷ちづ子名義でエッセイ『オバ道』、『女性の見識』などの著作があるが、小説家としては本作がデビュー作となる。

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やっかいな食卓

『やっかいな食卓』
著/御木本あかり

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