今月のイチオシ本【ノンフィクション】東 えりか

『津波の霊たち 3・11 死と生の物語』
リチャード・ロイド・パリー 著 濱野大道 訳
早川書房 本体1,800円+税

 まだ7年なのか、それとももう7年も経ったのか。2011年3月11日に起こった東日本大震災の記憶は、未だに鮮やかに残っている。1万8000人以上の死者を出した未曽有の災害を目の当たりにした時、誰もが無力感に襲われた。そして次の瞬間、こう思ったのだ。「次は自分たちの番かもしれない」。

 だが「あのとき、もしこうしていたら」と悔やまれる課題はたくさん残されている。とりわけ石巻市立大川小学校の被害は裁判で問われたほどだ。学校に残っていた児童78人のうち74人、教職員11人のうち10人が犠牲になった。北上川河口から約4キロ上流の川沿いに位置する大川小学校が水に飲まれたのは震災から50分も後だ。いったい何が起こっていたのか。

 著者は在日23年となる英国人ジャーナリスト。六本木で働いていた同国人の女性、ルーシー・ブラックマンさんが殺害された事件を追った『黒い迷宮』(ハヤカワ文庫NF)を著している。

 彼は大川小学校があった石巻市釜谷地区へ6年間通い詰め、土地の人たちと信頼関係を築いて本書を書き上げた。学校の立地環境や震災後の遺族の行動、県や市、学校の対応、遺族同士に起こった心の行き違いなど取材は丹念に行われた。本書の執筆時でも児童4人は行方不明で、重機を操り子どもたちを探す親もいたのだ。

 確乎たる事実を積み重ねる一方で、著者は被災地の心霊現象に興味を持つ。宮城県の通大寺住職で被災者への傾聴活動を行う金田諦應師が開催したイベントでは、人々の心霊現象体験も多く聞かれた。

 ごく普通の男性が何かに憑依され獣のようになったり、消防署へ崩壊した住宅地への出動を要請する電話が何度もかかってきたり、仮設住宅でのお茶会に亡くなった人が混ざっていたりと、日常の中に死者は溶け込んでいた。

 日本人にありがちな過剰なまでの受容の精神や我慢、まわりくどさにうんざりしつつ、怒りを持って闘う遺族たちにエールを送る。異国のジャーナリストだから見える真実は、われわれにとって貴重な示唆を与えてくれた。

 

(「STORY BOX」2018年4月号掲載)

(文/東 えりか)