今月のイチオシ本【ノンフィクション】

 

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』
和田靜香

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。

左右社

 いま、私は第49回衆議院選挙戦のまっただなかでこの原稿を書いている。投票日まで1週間を切った。本誌が読者に届くときはすでに選挙は終わっており、政権与党と野党が、そのままかそれとも変わったか結論は出ている。その時、私はどう思っているのだろう。

 著者の和田靜香は音楽関係を手始めに相撲や困窮者支援などの記事を書くフリーランスライターである。50代半ばの今まで定職についたことはない。ライター業だけでは生活が苦しいため飲食関係の様々なアルバイトで収入を得ていたが、「時給はいつも最低賃金」だった。

 こんな生活を強いられるのは政治が悪いから、政治家のせいだ。寝言のように言い続けているうちにコロナ禍にぶち込まれた。非正規で雇用されている人、特に女性が解雇や雇止めの憂き目にあう。和田もそんなひとりとなった。

 私はどうしたらいいんだろう? それを知りたくて選んだ手段が「国会議員に直接聞く」だった。

 選んだ議員は立憲民主党の小川淳也代議士。東大卒で自治省に入省後、32歳で強い使命感を持って国会議員に立候補した。2020年6月『なぜ君は総理大臣になれないのか』という小川淳也を17年追いかけたドキュメンタリー映画が公開された。映画を見て記事を書く、という仕事を和田が請け負い、内容に感動した和田がインタビューを申し込んだことで、この企画が通ったのだ。

 だが最初は具体的な質問事項があったわけではない。初めての会談では「自分が何が分からないのかも、どこから考えたらいいのかも、全くわからない」とあまりにも正直に伝えたことで、一般庶民からの生活に密着した日本の政治、経済の現状が明らかにされていく。

 人口問題、税金、雇用、環境、エネルギー、原発と問題は山積している。日本に住むほとんどの人は不安を抱えているだろう。その不安の原因は何なのかを具体的にするだけで少しは安心できるのだ。

 読者の多くは和田と同じように知識を得て、考えがまとまっていくだろう。願わくは選挙の前に読んでほしかった。

(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2021年12月号掲載〉

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