◎編集者コラム◎ 『ゴールドサンセット』白尾悠

◎編集者コラム◎

『ゴールドサンセット』白尾悠


『ゴールドサンセット』写真
ドラマのポスターと文庫。ちなみに、本を持つ手は著者の白尾悠さん。

 この話が浮かんできたのは、白尾悠さんと、今は残念ながらなくなってしまった「さいたまゴールドシアター」の話が盛り上がったときだった。なんと、白尾さんのお母さまは長年公務員として勤め上げた後に、この劇団のオーディションを受けて、見事団員になったという。

 それはまさにこの小説の「第2幕 金の水に泳ぐ」で描かれている(もちろん、フィクションのアレンジがあるが)。その劇団のお話、お母さまのお話、大変面白く、身を乗り出して聞いてしまった。そこから、是非、その劇団とそこを取り巻く人々の連作短編集にしましょう、と決定した。取り巻く人々、としたのは、年代も幅を持たせたかったから。その代表的な存在が中学生の琴音だろう。そして、いじめ、セクハラ、モラハラ、ジェンダー差別、LGBTQ……。現代の生きづらさを象徴する「傷み」を描いてもらった。

 その世界の多様性、その生き様の多様性、その悩み・苦しみの多様性。紡がれた言葉は懸命に生きる弱者にとても優しく、時に厳しい。「生きることの意味」を読んでいる私たちに問いかける。

 でも、思う。「それでも、生きている。そして、生きていく」。

 その、人間の持つ根本的な強さを描くのが白尾作品の魅力だと思う。そして、読んだあとは「生きること」「老いること」を含めた人生が愛おしくなる。誰でも必ず共感できる人生、生き様が存在する。そして、そこにアクセントとして今回は演劇の台詞を引用。人々の生き様が、よりドラマティックに表現された。

 そんな作品が、この度、連続ドラマとなった。しかも、内野聖陽、小林聡美、中島裕翔、三浦透子、毎田暖乃、坂井真紀、和久井映見、風吹ジュン……。目を見張るような豪華キャスト。

 そして、そのドラマ化を機に文庫化。

 是非、この物語に励まされ、2025年を良いスタートにしていただきたいと願っています。

──『ゴールドサンセット』担当編集者より

ゴールドサンセット
『ゴールドサンセット』
白尾悠
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