採れたて本!【国内ミステリ#26】
特殊設定ミステリにも、SF的な道具立てが使われたものやファンタジー的な世界観に基づくものなどいろいろあるが、大島清昭は一貫して、幽霊・妖怪・邪神といったホラー的モチーフの実在を前提とする本格ミステリを書き続けている作家だ。デビュー作『影踏亭の怪談』から始まる怪談作家・呻木叫子【シリーズが知られているが、新刊『一目五先生の孤島』は、『地羊鬼の孤独』と同じく中国由来の妖怪を扱った作品である。
小学生の頃からミステリが大好きだった倭文文は、やがて名探偵になることを志し、大学卒業後はファントム・リサーチという法人向けの調査会社に入った。ところが霊媒体質が災いして、彼女は地下2階にある変則的現象調査課、略称・変調課に転属させられる。そこは、心霊現象を実際に現場に赴いて調査し、原因を明らかにすることを目的とする部署だった。早速、ある保養所での心霊現象の調査をたった1人で任され、合格と見なされた倭文は、次に茨城県沖の五福島という無人島に、他のメンバーとともに赴くことになった。遠い昔、島に漂着した妖怪「一つ目五人」によって住民が全員死亡したという伝承があるその島では、30年前に5人の男女が殺害され、今なお未解決のままなのだという。
この事実が倭文に告げられたあたりで、変調課の面々による島内の調査と並行して、30年前の事件の被害者の1人であるミステリ作家・清流和泉が殺される前に書き残していた手記が挟み込まれてゆく。清流は、五福島を所有する占い師・リブラ財善からの招待で、島にあるリブラの別荘を訪れた。ところが、翌朝に招待客の1人が殺害され、リブラは姿を消していたのだ。
この事件を検討するうち、現在の倭文たち一行も何者かの襲撃を受ける。こうして、過去と現在でそれぞれ連続殺人が進行するのだが、二重の見立て殺人、密室、多重推理といった本格ミステリとしてのガジェットが満載である一方、本書は幽霊の実在が物語の前提となっており、これでもかとばかりに心霊現象が頻発する。倭文たちは殺人鬼の正体を推理しつつ、人を死に至らしめるほど強い霊障を発揮する凶悪な幽霊をも相手にしなければならない。その幽霊を退散させる手段はあまりにもユニークで、特にミステリ作家またはその志望者が読んだら共感性羞恥に襲われてしまうのではないか。
最後には、本書の世界観でなければ絶対成立しない異様な犯行動機が明かされるが、この結末はシリーズ化を前提としているようにも読める。倭文たちの今後の活躍に期待したいところだ。
『一目五先生の孤島』
大島清昭
光文社
評者=千街晶之