週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.184 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 宮脇書店青森店 大竹真奈美さん

そんなときは書店にどうぞ

『そんなときは書店にどうぞ』
瀬尾まいこ
水鈴社

 書店員は皆、バトンを渡されたアンカーだ。

 そんな風に意識するようになったのは、瀬尾まいこさんの著書『そして、バトンは渡された』を読んでからだ。
 1冊の本ができるまでには、様々な人が関わっている。作家を筆頭に、編集者、校正者、校閲者、ブックデザイナーから印刷、製本、取次など多くの手がかかる。
 書店員は託された本を工夫して並べたり、お問い合わせの対応などもするが、最後の最後に、その本を直接読者に手渡す。それがアンカーである書店員の仕事だ。
 レジで「心を込めて大切に作られた本を、しかとお渡ししましたよ」と、これまでにその本に関わってきた人たちのことを思う。お客様が喜ばれると、私だけがその笑顔をひとりじめするのがもったいなくて「あぁ〜この瞬間をこの目がシャッターみたいにパシャリと写して、この本を作ってくれたみんなと共有できたらいいのに」と思ったりしながら、1冊の本を見送る。

 しかし、そんな幸せを噛みしめる場がどんどん減ってきている。今まで何度、全国各地から「閉店」という悲しい言葉を耳にしてきただろう。バトンを渡されるアンカーの居場所がなくなる。そのことに危機を感じた作家の瀬尾まいこさんが、書店のために書いて下さったのが、このエッセイ本だ。
 ただのエッセイ本ではない。本作は、瀬尾さんが書店を応援するために印税の受け取りを辞退し、書店マージンを50%としたというから驚きだ。まさに書店のための愛から生まれた本なのだ。

 このエッセイ本には、瀬尾さんが本屋大賞受賞後、書店まわりをした時の面白エピソードや、無敵のカルカン先輩、ダジャレ社長とのやりとりなどが軽妙に語られ、水鈴社から第1作目として刊行された『夜明けのすべて』の映画化の際の出演者たちや監督とのお話など、思わず笑ってしまうようなほっこり楽しいエッセイが25本収録されている。
 そしてエッセイだけでなく、吉川英治文学新人賞を受賞した『幸福な食卓』の後日譚となる書き下ろし短編小説も掲載されているのも嬉しい。

 私は『そして、バトンは渡された』に、大げさでなく人生を救ってもらった。読後、泣きながら本を抱きしめ、この本を多くの人々へ届けたい!と強く思い、祈りの1票を捧げるべく初めて本屋大賞に参加した。強い思い入れのある作品だ。

 泣きながら本を抱きしめたことのある人は、微笑みながら本を手渡すことができる。きっと「今がその時」と思える時には、ちゃんと。
 届くべき人のところへ、届くべき本を手渡す。私はそんな書店員でありたい。
 そんな想いでバトンを胸に、そしてこの愛あふれる希望色の本を並べて、書店でいつも待っている。
 なので是非、週末とは言わず、気が向いたらいつでも書店にどうぞ。

   

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大竹真奈美(おおたけ・まなみ)
書店員の傍ら、小学校で読み聞かせ、図書ボランティア活動をしています。余生と積読の比率が気がかり。


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