ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第157回

「ハクマン」第157回
創作業というのは、
時間とコストをかければ
良いものができるわけでもない。

先日この連載が「〆切は破り方が9割」というタイトルで書籍化されたのだが、それに対してのインタビューがあった。

一体これに対して何の聞きたいことがあるのか、と思ったが先方も同じ気持ちだったらしく、ほぼ初手でタイトルになっている「〆切」について尋ねられたような気がする。

全裸であること以外何の特徴もない人間に最初から「今日服どうしたんすか?」と聞くような蛮勇だ。

全裸相手であれば、その後のインタビューは国家権力にバトンタッチできるので次の質問の必要はないかもしれないが、私はその時偶然服を着ていた。

最初にそれを聞いて残り55分をどうやり過ごすのか心配になってきたが、素直に「破る以前にこの連載に〆切はない」と答えた。

料理本のインタビューを「俺は作ってない」の一答で終わらせる奴みたいになってしまったが、この連載に〆切がないだけで、他の連載にはある場合が多い。

つまり「俺は料理はするがこの本に載っている料理は1個も作ってない」と言っているだけだ。

実際にこの連載は「何日に出してくれ」という〆切指定がなく、担当から「そろそろ次の原稿を出せ」と催促が来てから書き始めている。

つまり、担当が催促をやめた時点でこの連載は終わるのだが、そうやって終わった連載も本当にあるので、やはり〆切や催促というのは商業作品にとって必要悪なのだ。

今回に限らず、インタビューを受けると、つい返答が投げやりみたいになってしまうことが多い。

作品について「これは何を思って、どのツラを下げて書いたのか」等の質問を受けても「何を考えていたんでしょうね?」としか答えられない時が多いのだ。

インタビュアーが質問を質問で返す奴を爆殺してくれるタイプなら良いのだが、そんなこともなくただ「取れ高ゼロ」のまま次の質問に行くしかなくなってしまう。

ライブ感を重視しているアーティスト気取りだとは思われたくないので、その場で「俺が考えた最強のその時思っていたこと」が思いつけば、それらしく言うのだが、何も思いつかない時は、放送事故級の無言の後「覚えていない」「その時思いついたことを描いている」という返答になってしまうのだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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