ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第162回

「カレー沢先生がサクセスして、
今年一発目の催促を受けてこの原稿を書いている。
実をいうと、去年私の漫画が実写化したことで、何らかの富が発生し、もう一生働かなくて良くなるのではと思っていた。
一生と言わなくてもしばらくの余裕が発生すると予想し、周囲には「3年は休む」と宣言しまくっていたのだが、現実は今のまま3年休むと栄養失調などにより永遠の休息が訪れるため、結局今年も原稿を書いている。
毎年多くの作品がメディア化されているが、その原作者が全員活動をやめて姿を消しているかというと、何事もなかったように描き続けている方が多数派だ。
冷静に考えてみればそう簡単に一生分の富が手に入るはずはない。
去年、読者から「カレー沢先生がサクセスして、作品を描かなくなってしまうのではないか、読者としては心配です」という便りがきたが、今思えば杞憂の例文として広辞苑に記す、もしくは戒めとして背中に彫った方がいい教訓である。
しかし、私以外の原作者は一生食っていける富を手にしたが、その後も活動を続けているだけ、という可能性も捨てきれない。
実際、漫画界のトップはもう描かなくていいのに描いている人の集まりである。
先日「ミナミの帝王」が最終回を迎えるとなり、それを知った夫が「なんで!?」という妙に根源的な疑問を発していたが、こちらに言わせれば「むしろなんで今まで描き続けてくれたんだよ」である。
とっくに生活に困らなくなっているであろうレベルの作家が何故か何十年も描き続けてくれているという怪現象は漫画界では珍しいことではない。
漫画界に限らず、生活のために働かなくて良くなっても働き続けている人は意外と多いし、「仕事が楽しくなった」とさえ言うのだ。
生きるために働いている者からすれば「仕事が楽しい」というのは特殊性癖の部類である。
話を聞いてみると「巨万の富を持った状態で会社勤めをするとパワハラにもノーダメと化し、今まで効いてた攻撃が効かないことに不安を覚えた相手がどんどん弱っていくのが楽しい」という、本当に特殊性癖でしかない場合もあるが、経済的余裕により、仕事にも余裕を持って取り組めるから楽しいそうだ。
確かに、世界一の金持ちであるイーロン・マスクだって完全に働かなくても生きていける側なのに、AIや宇宙、そしてXに愛嬌のない魔改造の夜をしかけ続けるなどの事業を続けている。
金があるから働かないを選んだはずのFIREの民ですら、1日のスケジュールを見ると、原稿執筆や動画作成などの経済活動を行っていたりする。
つまり、富を得たことで仕事を完全にやめるのではなく、好きな仕事だけするようになった、ということだ。
イーロンも楽しいからXをあんな風にしているのだろう。もし楽しくないならあの場にいる全員が楽しくないことになるので、せめてイーロンだけでも盛り上がっていてほしい。
漫画も経済的余裕により、自分の描きたいものが描けるようになり、却って長期間描き続けることが可能になるのかもしれない。
作者の好きに描いたものが読者にとって面白いかはわからないが、困窮による糖不足の脳で考えた話が面白いとも思えない。
- 1
- 2






