ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第162回

「ハクマン」第162回
「カレー沢先生がサクセスして、
作品を描かなくなってしまうのではないか、
読者としては心配です」

仮に需要がなかったとしても、金が十分にあるなら漫画は趣味として描けばいい。

実際私も漫画家になる以前は趣味で絵や漫画を好きで描いていた時期があったのだ。

好きで描いていた時期を思い出そうとするたびに「本当に描くことが好きだったのか、それに付随する承認を求めていただけではないのか」という声が聞こえて気を失うのだが、これも糖不足による幻聴だと思うので、金さえあれば聞こえなくなるはずだ。

しかし、漫画家になる以前、何を好きで描いていたのかと言われれば、ほとんどが二次創作なのである。

自分でオリジナルのキャラや話を描くことなど最初からそんなに好きではなかった、という衝撃の事実だが、己の飢餓脳で考えたキャラより、お他人様が考えたキャラを描く方が楽しいのは当たり前だ。

よって私も、仮に巨万の富を得たとしても、漫画や絵を描くこと自体はやめないかもしれないが、変な家シリーズの栗原さんの夢創作とか、二次創作の方にシフトするような気もする。

しかし、描かなくてもいいのに描き続けている作家は、描くのが好きだからという自我より、読者が喜ぶから、という理由で描き続けている場合も多い気がする。

読者のために嫌々描いているわけではなく、読者が喜ぶのが嬉しいから描くのも楽しいという、こんな精神構造の奴に勝てるわけがない理由で描いているのだ。

漫画だけではなくエンタメ業はこの「サービス精神」を持った奴がとにかく強い。

キレイごとではなく、この業種は誰かを喜ばせることで利益が発生するシステムなのだから当然だ。

金さえ入れば、今やっている連載も何もかも放り投げて3年は休むと言いまくり「描かなくなるのが心配です」と言ってくれた数少ない読者に「悪いな!」と金が入らないうちから謝っている私にはつくづく向いてない業種だと思う。

ハクマン第162回

(つづく)
次回更新予定日 2026-3-11

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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カレー沢 薫

◎編集者コラム◎ 『風の値段』堂場瞬一
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