採れたて本!【海外ミステリ#45】

M・W・クレイヴンの〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズに毎度毎度同じ賛辞を送ってしまうのをそろそろやめたいのだが、今回も言わせてほしい。「シリーズ最高傑作、更新」である。
重大犯罪分析課の刑事ポーとその相棒となる分析官ティリー・ブラッドショーの活躍を描く〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズは今作で七作目となる。長期シリーズだが、本作から読むことも可能だ。一応、注意点を書いておくと、第六作『デスチェアの殺人』に登場する重要人物が今回も再登場しているため、前作のネタが一部分かってしまうことと、今作の帯にも「再始動」とある通り今回は「一度解体された重大犯罪分析課が再始動する話」なので、なぜ解体されたか、その経緯について少し知ってしまうことにはなる。それでもなお、ここから読むことは十分可能だろう。
第一作『ストーンサークルの殺人』はオーソドックスな謎解きもの、第二作『ブラックサマーの殺人』が変則的な不可能犯罪もの、第三作『キュレーターの殺人』は連続猟奇殺人ものだった。第四作『グレイラットの殺人』で国家謀略やテロリズムの要素がこのシリーズに合流し、第五作『ボタニストの殺人』ではジョン・ディクスン・カーの名前さえ引き合いに出して、二つの密室殺人で読者を魅了する。第六作『デスチェアの殺人』ではカルト教団を題材に取り、シリーズ屈指のエグい展開と、日本の新本格ミステリーを思わせるようなトリッキーな仕掛けで魅せてくれた。このように、様々な魅力を見せつけながら縦横に展開してきたシリーズなのだが、今回は、擬態服を着て潜み、不可能とも思える長距離狙撃を十七件も成し遂げた犯人──という神出鬼没の怪人との戦いを描く。ジェフリー・ディーヴァーの『ゴースト・スナイパー』を思い出す設定にニヤリとせずにはいられないが、冒頭からいきなり、シリーズ読者を不安に叩き落とすような展開が待ち受ける。ニュースはこう告げていた。犯人による二十一人めの犠牲者は、マチルダ(ティリー)・ブラッドショーである、と──。
この冒頭を読んで引き返せる読者がいるだろうか? クリフハンガーの技術はクレイヴンのお手の物で、各節の切り替わりごとに意外な情報を叩きつけて読者を翻弄してくれるが、これほど凄まじい「引き」は見たことがない。そして、この「引き」への期待は裏切られないのだ。このクライマックスは面白すぎる。ぬけぬけとした会話劇も含め、最高傑作を更新したと書くのにためらいはない。ちなみに、第五作のジョン・ディクスン・カーのように、今回もかなり決定的な場面で、ある古典ミステリーに言及している。これを見て、「クレイヴンさん、あなたもやはり、マニアだったんですね」と嬉しくなった。イギリスミステリー作家の間でリスペクトの系譜がきっちり受け継がれているのを見るとほっこりするのだ。
評者=阿津川辰海







