採れたて本!【海外ミステリ#42】

海外ミステリにポッドキャストが登場することが珍しくなくなってきた。ホリー・ジャクソンのシリーズ第二弾『優等生は探偵に向かない』は、第一弾の事件のことを主人公のピップがポッドキャストで配信しているという設定から幕を開けるし、海外ドラマ「ポーカー・フェイス」にはポッドキャスターが重要な役割を果たすエピソードがある。背景には外国における犯罪実録系ポッドキャストの隆盛があるだろう。日本でも上出遼平の「健康チャンネル」(YouTube)や「UNCOVER 新章 未解決事件現地調査」など、ポッドキャスト等のプラットフォームを利用したものが出ているので、そう遠くない景色なのかもしれないが。
ヨルン・リーエル・ホルストとヤン゠エーリク・フィエルのコンビによる合作『クライムキャスト Vol.1 届かなかった叫び』は、まさにそんなポッドキャスターの一人語りから始まる。題材は十五年前、小さな町で失踪してしまった七歳の少女。個人的な体験も交えながら語られるその事件の話に引き込まれ、地元紙の臨時記者、マチルデ・ヴォルはさっそく次のエピソードを聞こうとするが、エピソードは1話目しか配信されていなかった。マチルデはポッドキャスターであるマルクス・ヘーゲルに連絡を取り、問い合わせをするが……。
二人の作家による合作ではあるのだが、未解決事件という題材には、著者の一人ヨルン・リーエル・ホルストの意向が強く反映されているように思える。小学館文庫で邦訳された『カタリーナ・コード』に始まる警部ヴィスティングを主人公とした四作は〈未解決事件四部作〉と呼ばれていた通り、全てが未解決事件を扱ったものだった(警部ヴィスティングシリーズは十作以上の長期シリーズで、この四部作はシリーズ内シリーズのような扱いだった)。警察官だったホルストは、重大事件が未解決のままになった経験があり、このような悲劇を放置しておけないとこのテーマを繰り返し取り上げている。まさに作家にとっての中心的主題なのだ。
フィエルという合作の相棒については、日本で他の邦訳がない。合作としてどのように分担して作ったか(執筆も共同で行っているのか、章ごとに分けているのか、どちらかはプロット提供だけかなどなど)は想像するしかないが、未解決事件を題材とした重い作風でありながら、思わぬ角度から新情報が次々もたらされるサスペンスフルな語りは、合作によって生まれた相乗効果かもしれない。マチルデとマルクス、二人の視点を置いているのもいい(これは〈警部ヴィスティング〉でも父と娘という形で使われていた技法だが)。
このマルクスには、とある事件で服役囚となったフランクという父がおり、彼の人物造形や関係性なども謎めいていて大いに読ませる。「Vol.1」とうたわれている通り、メインの事件は片が付くものの、マルクスとフランクの物語はまだまだ先が気になるところで幕が引かれる。最強タッグによる、静かで滋味深く、しかしサスペンスフルな新シリーズの開幕だ。
評者=阿津川辰海






