◎編集者コラム◎ 『ひなたストア』山本甲士
◎編集者コラム◎
『ひなたストア』山本甲士
サラリーマンにとって、転職は人生の大きな転機です。しかも、若い人に比べて中年だったら余計に勇気の要ることでしょう。本書の主人公・青葉一成は、業績の悪化した会社から早期の退職勧奨を提案された中年のサラリーマン。一成は、ちょうど学生時代の友人清水から誘いを受けていたため、その会社──グリップグループへの転職を決めていました。早期退職を受け入れ希望に胸を膨らませていた一成でしたが、一転して前途に暗雲が漂います。直前に、グリップグループに新社長が就任。一成は前社長の方針で入社したため、一時は入社も難しくなったと言われました。
その後受け入れてくれることになったのですが、当分は研修ということで、加盟スーパーの副店長で現場担当となりました。行ってみると、近くに大きなスーパーが2店あり、勤務先のひなたストアへの客はがらがら。ここまでの処遇を考えると、なすすべもなくひなたストアが潰れてしまうと、降格や出向などに追い込まれる可能性が。しかも、ひなたストアの店長は前社長派で、青葉を新社長派のスパイと疑っているようで、心を開いてくれず……。
ひなたストアは、品揃えも少なく、活気もなく、店員もやる気のない印象で、建物の外観もくすんでいます。
通勤を考え、妻と娘と離れひとり暮らしを始めた一成。いわば四面楚歌のスタートでしたが、隣の家に住む真鶴さんという80代くらいの女性が、店舗再生の大きなヒントを与えてくれることになるのです。一成も、逆境にめげることなく自身でできることから始めようと、まず女性スタッフとコミュニケーションを取ることで信頼関係を築いていきます。そんな一成の前向きな気持ちは、読者として応援したくなるキャラクターです。
本書は、以前『がんこスーパー』として刊行された作品を改題しました。そこにはなかった、著者の「あとがき」を収録しました。本書が生まれるきっかけがよくわかります。
本書のカバーイラストは、イラストレーターのおとないちあきさんが描いてくれました。舞台となるスーパーマーケットの売り場を切り取っています。色とりどりの野菜が目に鮮やかに飛び込んできます。ラスト、さわやかな読後感に包まれる本書に相応しいカバーとなりました。
追い込まれた主人公が奇跡的な復活を遂げる感動作、という点でロングセラー『ひなた弁当』を楽しんで下さった方には、オススメの1冊です。