◎編集者コラム◎ 『ボローニャの吐息』内田洋子

◎編集者コラム◎

『ボローニャの吐息』内田洋子


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「小さな通信社がやることとして『隙間を報道しましょう』と。誰も知らないイタリア。それはニュースにならないかもしれないけれど、必ず日本の人が知りたいと思っていることだと考えました」

 日伊往来四十余年。イタリアで通信社を立ち上げて三十余年。昨年、日伊の文化交流に貢献した人に贈られる「ウンベルト・アニェッリ記念ジャーナリスト賞」を受賞された際の内田洋子さんのスピーチです。

 そうなんです。ジャーナリストで、エッセイストでもある内田さんが書(描)かれるのは、決して特別でない、イタリアでの日々。けれどその筆にかかると、日常がなんともドラマティックに、魅惑的に、見えてきます。

 本書はそんなイタリアの日常にひそむ美をめぐる、十五のエッセイ集。南部プーリア州の熱々の素パスタの小麦粉の甘さ。雨に沈むヴェネツィアの水の匂い。カンパリの透明で濃厚な赤──本書を読むと、ぐいぐいと訴えてくるのです、五感に。見ているのは活字なのに不思議な感覚……。

 折しも、本書の作業途中で新型コロナウイルスが発生。深刻さを増してゆくイタリアの報道に胸を痛めながら作業を進める日々でした(そんな時癒しになったのが、内田さんがゲラとともに送ってくださったイタリアのキャンディ。いや、内田さん風にいうと「飴ちゃん」?)。

 本書でもヴェネツィアの仮面の裏に隠されたペストと人々の闘いの歴史が描かれています。中世から近世まで、欧州は繰り返しペストの大流行に見舞われました。

「〈死〉に由来する仮面を脱ぎ捨て、春の到来に快哉を叫ぶ。復活を歓ぶ。己の春が永久に続くことを祈るかのように、ヴェネツィアのカーニバルは年々、華やかさを増していった」……暗い中世を抜けたヴェネツィアを内田さんはこう書かれています。

 誰も知らないイタリアに触れたい方はもちろん、イタリア、日本、そして世界の春を待ち望む今こそ、多くの方に読んでいただきたい一冊です。

──『ボローニャの吐息』担当者より

ボローニャの吐息

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