◎編集者コラム◎ 『サルデーニャの蜜蜂』内田洋子
◎編集者コラム◎
『サルデーニャの蜜蜂』内田洋子
コロナ禍が始まってすぐの初夏に『サルデーニャの蜜蜂』は単行本として刊行されました。シーズン特有の解放感はなく、この夏をどうやり過ごそうか、というムードに満ちていたものです。そんな重い空気の中だからこそ、カバーには人の温もりを感じさせる「手」と爽やかなレモンの写真を使うことになりました。サルデーニャのレモンです。
本作は「本の窓」で連載された15のエッセイをまとめたものです。連載にあたって内田さんにお願いしたのは「人をテーマに」ということ。イタリアで報道の業務に就かれていた内田さんの生活といえば、生き馬の目を抜くような都会・ミラノから、山岳地帯の小村、バカンスでにぎわう海辺と各地を飛び回り、日々旅をしているかのよう。旅先での人との出会いは楽しく、時には人生の苦みも知って切なくもなります。
表題作で描かれるのはサルデーニャ島で古代ローマから続く養蜂家一家とのふれあい。一族による蜂蜜の作り方は門外不出、一筋縄でいかない甘さは島の厳しい環境を表しているようです。フランスの国境近くで暮らした数年間、向かいの山に住む隣人(?)との交流を描いた「満月に照らされて」。温かなボロネーゼソースの香りの中に、隣人の過去が見え隠れします。「聖なる人」では、学生時代に、まだ見ぬイタリアの一端を知ることになった経験が書かれていて興味深いです。
話の中にあるのは人との触れ合い。内田さんと一緒に私たちもイタリアを旅し、出会った人たちの人生に触れることができる、深い一冊です。
文庫化にあたっては、編集者・読書案内人の河野通和さんにご解説をお願いしました。内田作品の魅力を余すところなく伝えて、初めての内田さんの作品に触れる方にこそ読んでいただきたいです。中でも、サルデーニャ島のパンであるパーネ・カラザウにまつわるエピソードは必読です!
あれから三年経ち、世の中は徐々に元の生活に戻りつつあります。早くも夏は折り返し地点ですが、これから旅に出る方も多いでしょう。バカンスのお供にはぜひ文庫『サルデーニャの蜜蜂』を!
──『サルデーニャの蜜蜂』担当者より