◎編集者コラム◎ 『時計仕掛けの歪んだ罠』著/アルネ・ダール 訳/田口俊樹
◎編集者コラム◎
『時計仕掛けの歪んだ罠』著/アルネ・ダール 訳/田口俊樹
BBCでも放送されたテレビシリーズ『INTERCRIME』の原作者、アルネ・ダール。日本では同シリーズ第一弾の『靄の旋律 国家刑事警察 特別捜査班』の一作が紹介されたきりになっていましたが、北欧ではもっとも優れたクライムノベルの書き手として高く評価され続けている人気作家です。そのダールの、実に8年ぶりとなる日本上陸作品がこの『時計仕掛けの歪んだ罠』。サム&モリーという、かなり強烈な男女が活躍するノンストップ・スリラーシリーズ第一弾です。
スウェーデン国内で起きた3件の15歳少女失踪事件を捜査する刑事サム・ベリエル。彼は連続殺人事件だと確信していますが、まもなく定年を迎える上司はことを荒立てるのを嫌い、彼の主張をまともに取り合おうとしません。けれどもトムには主張する「根拠」があり、一人捜査を続け、そしてやっと容疑者に辿り着く……。
それ以上は何を言ってもネタバレになりそうなので詳しいことは差し控えますが、とにかく読み始めると、鼻の先にぶらさげられた人参を追う馬の如く、主人公たちと共に一気にラストまで全力疾走してしまうような、とてつもないパワーを持ったページターナー本です。しかも、その馬(=私を含めた読者の皆さんですよ!)が走り出してから気づくと、それは出走コースではなく実はとんでもなく複雑かつ広大な迷路だったりして、「こっちがゴールだ!!」と思って突進すると、明後日の方向から「こっちだよ~!」と意地悪な声がしてしばし呆然とする、その繰り返しのような。
中でも編集者として一番推しておきたいのは、取調室のシーンです。泣き落としだったり、えげつないブラフだったり、古今東西、警察小説には数々の名「取調」場面が存在しますが、こんな取調シーンにはちょっとお目にかかれない、というかそんなんアリ!? という、仰天の展開が待っています。たとえて言うなら、迷路だと思って迷い込んだものが実は迷路ではなく、もっと別の何かすごいものだった、と気づいた感じでしょうか……(ああ、自分の表現力の無さが恨めしい)。
とにかく、ぜひ読んでその「仰天」を皆さまにも体験していただきたい!
ちなみにこの小説、時計好きの方にもお薦めです。タイトルにも書影にもなっている時計ですが、サムの名品コレクションを始め、本作のいたるところに大小さまざまな時計の描写がありますので、そちらもお楽しみ頂けるかと。
そんな時計をモチーフにした静かに怖いジャケットの本書、読む前にちょっとだけ頭の準備体操をして読むことをお薦めします。
さあ、とてつもない迷路へ、行ってらっしゃい。
──『時計仕掛けの歪んだ罠』担当者より