矢島真理『円環』

矢島真理『円環』

あのアルネ・ダールが戻ってきた


「森のにおいと音が、ひしひしと迫ってくる。彼らは今まで、これほどまでに豊富な緑の色合いを見たことがない。個別の宇宙を構成している森のなかで、鳥の歌声が空気のなかに満ちる」

 アルネ・ダールの新シリーズ第1作『円環』は、雪に閉ざされた真っ白な世界が舞台だった前作『狩られる者たち』とは対比的に、鮮やかな色に満ちている。海のように波打つ黄色い菜の花畑、深い森のなかに結ばれた赤と青と緑のリボン、廃墟を見おろす白い教会、外側にいくほど色が薄くなっていくピンク色の楕円形、朝日を浴びてきらきらときらめく運河、夕陽に映えるストックホルムの街並み、人の顔に反射するパソコン画面の色とりどりの光。

 長く厳しい冬を経て、生き返ったようにさまざまな色の深みを見せてくれる森の緑。スウェーデンの森林は、日本の森林率とまったく同じ、国土の3分の2を占めているそうだ。そんな自然豊かなスウェーデンで、気候変動に影響を与えているとされる大手製鉄会社の幹部と、石油産業の一大広告キャンペーンを仕切っている広告マンが相次いで爆死する。無関係と思われていたふたつの事件は、スウェーデン警察庁の主任警部個人宛に送られてきた謎めいた手紙によって、連続爆破テロ事件としてつながる。手紙は、環境テロリストからの犯行声明なのか。それとも……

 難解な事件の捜査にあたるのは、手紙の宛先となっていた主任警部のエヴァ・ニーマン率いるNovaグループ。ひと癖もふた癖もある個性豊かなグループのメンバー4人は、それぞれに苦悩を抱えながらも、優秀な警察官としての能力をいかんなく発揮する。彼らは、首都ストックホルムを中心として各地に飛び、事件の手がかりを追う。読者はいつしか、「北欧のヴェネツィア」とも称されるストックホルムの街並みや、原始時代を思わせる深い森、広大な大学のキャンパス、雨のカーテンにかすむ沼地のなかに、登場人物たちと一緒に迷い込んでいく。

 アルネ・ダールならではの、思いもよらない展開、なにを信じればいいのかわからない困惑、心臓に悪い一刻を争う緊迫感、を楽しんでいただきたい。まさか、最後はまた……

  


矢島真理(やじま・まり)
東京生まれ。国際基督教大学教養学部理学科卒。訳書に、A・ダール『狩られる者たち』(共訳。小学館文庫)、E・フラナガン『鹿狩りの季節』、J・トンプキンス『内なる罪と光』、R・ボウエン『恋のスケッチはヴェネツィアで』(以上、早川書房)、『短編画廊 絵から生まれた17の物語』(共訳、ハーパーコリンズ・ジャパン)など。

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円環

『円環』
著/アルネ・ダール 訳/矢島真理

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