◎編集者コラム◎ 『THE MATCH』ハーラン・コーベン 訳/田口俊樹 訳/北綾子
◎編集者コラム◎
『THE MATCH』ハーラン・コーベン 訳/田口俊樹 訳/北綾子
突然ですが、「DNA鑑定サイト」の存在を、皆さまはご存じでしたか。
米国のヒットメーカー、ハーラン・コーベンの最新作『THE MATCH ザ・マッチ』では、このDNA鑑定サイトが物語を動かす大きな要素となっています。シリーズ前作『森から来た少年』(2022年小学館文庫刊、原書『THE BOY FROM THE WOODS』は2020年刊)の中でも、アメリカで流行中の先祖捜しや血縁者確定サービスとして描かれています。DNA鑑定自体は事件の捜査方法としてもお馴染みで、皆さまも当然ご存じでしょう。それを商業サービスにしてしまうのはさすがアメリカ、なんて、前作の編集当時は遠い国の事情として薄らぼんやりスルーしておりました。今思うと、編集者としてはずいぶん無関心でお恥ずかしい限り。
今作ではこのサービスの様子ががっつり描かれ、改めて自分なりに調べてみようと「DNA鑑定サイト」でググってみて驚きました。日本でもすでにかなり一般的なサービスとして普及していたのですね。今さらながら、自分の無知加減を反省です。
『THE MATCH』では、前作に続き、幼い頃に森で独り育ったという天才調査員ワイルドが登場、彼の相棒とも言える豪腕おばあちゃん弁護士ヘスターの協力を得て、DNA鑑定サイトを使って本格的に自分の生みの親捜しに乗り出します。いきなり冒頭で実の父親と思しき人物と対面を果たすのですが、母親が誰なのか、自分がなぜ森に捨てられたのかはわからないまま。果たして実の親を見つけることが本当の自分の望みなのかと逡巡していた矢先、4か月前に届いていたのに気づかなかった、母方の親族と思しき人物「PB」からのメールに気づきます。実はPBは超人気リアリティ番組の大スター。ある出来事をきっかけに大炎上し、それ以来行方がわからなくなっていたことが判明。早速PBの身辺調査を始めたワイルド自身が、その後思わぬ事件に巻き込まれてしまうのですが……。
先の読めない怒濤の展開とキャラクターの魅力、リーダビリティ抜群のお洒落な文章で一気に読ませてしまう著者の手腕は本作でも健在。さらに、DNA鑑定サイト以外にも、リアリティ番組の虚像、キャンセルカルチャー、SNSいじめ、さらにはネット界の私刑集団まで、現代的なモチーフが鏤められ、時代を切り取りエンタメに昇華する匠の技は鮮やかの一言。コーベン作品を読むことで、自分たちが生きる「いま」の実像を改めて実感する人も多いのではないでしょうか。私など、いつもコーベン作品から「時代の先端」や「世界の趨勢」を教えられている気がします。巨匠になっても常に情報のアップデートを続けながら私たちをとんでもなく楽しませてくれる著者には、ただただ頭が下がる思いです。
ちなみにワイルドとPBのDNAマッチ率は23パーセント。その数字がどういうことなのか、本文を一部引用してご紹介しましょう。
マッチ率が約二十五パーセント(十七〜三十四パーセントのあいだ)の場合、あなたがたの血縁関係は以下のいずれかと考えられます。
祖父母/孫
おば/おじ
姪/ 甥
半分血のつながった兄弟姉妹
ワイルドとPBの関係はいかに? そしてワイルドの母親は見つかるのか? その他にもお楽しみは盛りだくさん。ぜひぜひ、その目で確かめてください。
──『THE MATCH』担当者より