田口俊樹『捜索者の血』
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とにもかくにもはずれがない
タイトルに書いちゃったけど、もう一度書きます、とにもかくにもはずれがないのがハーラン・コーベンという作家です。それが証拠に(と言っていいと思うけれど)新作はほぼ全作〈ニューヨーク・タイムズ〉紙のベストセラー・ランキングの1位に躍り出ます。また映像化される作品も群を抜いて多い。そうそう、2024年 NetFlix でテレビドラマ化された2018年邦訳刊の『偽りの銃弾』は、見事、2024年度前期の最高視聴数を獲得しました。
『捜索者の血』はそんなコーベンの邦訳最新作です。はっきり言います、これも当たりです、大当たりです。
わが子を殺した罪で終身刑となって五年になる。
〝ネタバレ注意〟で申し上げると、私はやってない。
これが本作の書き出しです。めっちゃ巧くないですか? 端からぐいっと惹きつけられません? この〝私〟(デイヴィッド)は二進も三進も行かない状況ですよね。〝ネタバレ注意〟なんて言ってる場合じゃないですよね? なのに言っちゃう。このあたりのバランス感覚、いいですねえ。私、とっても好きです。
物語は、収監中のデイヴィッドを彼の別れた妻の妹が初めて面会に訪ねてきたことから急展開します。まさかまさかの連続で、あれよあれよと言っているまに、読者は気づいたときにはもうどっぷり物語空間に引きずり込まれています。また、物語を外からではなく、内から見ていることにも気づきます。そう、あくまでも傍観者で、物語に参加することはできませんが――あたりまえですが――自分もまた物語空間に存在するかのような錯覚を読者に覚えさせてくれるのも、コーベン作品の大きな魅力です。
本作もまた NetFlix でテレビドラマ化が決まったそうです。これで本作には登場人物の配役を勝手に考えるという愉しみがひとつ増えました。そんな贅沢な愉しみを味わうためにも、どうかお早めにご一読を!
田口俊樹(たぐち・としき)
早稲田大学文学部英文科卒。英米文学翻訳家。最近の訳書にH・コーベン『THE MATCH』(共訳)、H・マッコイ『屍衣にポケットはない』、D・ウィンズロウ『終の市』、R・チャンドラー『プレイバック』(新訳)、L・ブロック『マット・スカダー わが探偵人生』など。著書に『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』がある