採れたて本!【海外ミステリ#27】

ハーラン・コーベンのサスペンスで家族、特に親と子の物語が強調されるのは、最も身近かつスリリングな題材だからかもしれない。『森から来た少年』の続編として刊行された『THE MATCH ザ・マッチ』はDNA鑑定サイトを用いて生みの親を捜す物語だったし、『ランナウェイ』は恋人によって薬物漬けにされた過去を持つ娘を父親が捜す物語である。
『偽りの銃弾』は最も刺激的だ。何者かに夫を射殺された妻が、2歳の娘のために自宅にカメラを設置する。すると、そのカメラに、亡くなったはずの夫が映っていたというのだ。家族の物語に、およそ現実の出来事とは思えない「蘇り」の仕掛けを重ねたところに、『偽りの銃弾』の素晴らしさがあった。サスペンスとサプライズの塩梅が丁度良く、評者はコーベンのベスト作品だと思っている。
最新作『捜索者の血』でも、コーベンは「親と子」、そして「蘇り」というパーツを効果的に用いている。三歳の息子、マシュウを殺害した罪で刑に服しているデイヴィッド・バロウズが本作の主人公である。彼は実際には息子を殺害していないが、息子を守れなかった責任を感じ、罪を受け容れていた。しかし、元妻の妹、レイチェルが面会に来た日、事情は一変する。彼女がデイヴィッドに見せた写真には、八歳になったマシュウとしか思えない少年が写っていたのである。彼は、実際には死んでいなかったのか? デイヴィッドは真相を探らなければならない。息子に再び会わなければならない。しかし、そのためには、この刑務所を脱出するしか方法はない……。
亡くなったはずの親族、という謎提示こそ、『偽りの銃弾』の同工異曲に見えるが、ここに「脱獄/逃亡サスペンス」の要素を絡めることで圧倒的なリーダビリティを生み出している。デイヴィッドを追いかける二人組のFBI特別捜査官のキャラも立っているし、なぜ息子が奪われたのか、という大きな謎が読み手の心を摑んで離さない。
レイチェルによって情報がもたらされることを含め、脱獄に必要な人間関係が構築されているあたりを御都合主義的に感じる読者もいるかもしれないが、なぜ彼らがそう振る舞い、デイヴィッドにどう負い目を感じているかが明かされていくあたりは、まさに「家族」というものの奇妙さを表している。特に、過去のレイチェルの心理が明かされる箇所は秀逸だ。謎を解きほぐしていく過程そのものが、「家族」を読み解き、デイヴィッドが過去を清算する巡礼の旅になっている。強い魅力を備えたプロットだ。『捜索者の血』、一気読み必至の快作としてオススメしたい。
評者=阿津川辰海