特別インタビュー▷のんの 「おいしい話」
小学館の文庫レーベル「おいしい小説文庫」がまもなく創刊1年を迎える。
長引くコロナ禍によって飲食業界は多大なる被害を受けた。一方で「家ごはん」が注目されるなど、私たちの食生活が大きく変わった一年だった。
改めて私たちにとって「食」とは何なのか。その貴さとは何か。「おいしい小説文庫」アンバサダー・のんさんに聞いた。
──普段は、どんな朝食を食べていますか。
基本的には白米が好きだから、忙しい日をのぞいてご飯派です。卵かけご飯にお味噌汁、そしてニラとツナの炒め物なんかをよく食べています。ニラは自分と一番マッチしている野菜かも。すぐに火が通りますし、めちゃめちゃ定番です。
──得意料理は何ですか?
グラタンです! 玉ねぎを炒めたあと、ベーコンやブロッコリーもバターで火を通して、いい感じになったら火を止めて小麦粉を入れてよく混ぜる。そこに牛乳を入れて、コンソメを入れて混ぜて、火を入れてとろみがついてきたらホワイトソースが完成。マカロニを入れるなり、ポテトを入れるなりして、チーズをのせて(オーブンで)焼きます。ネットでレシピを見つけたんですけど、とっても簡単で、すごくおいしい。
──いわゆる「お袋の味」を教えてください。
煮込みハンバーグです。お母さんがよく作ってくれました。ケチャップとソースを混ぜて、コンソメで味をととのえてから、ハンバーグを煮込むというシンプルなもの。すご~く柔らかかった。私もレシピを教わって、何度か挑戦しているんですけど、なかなかうまくいかないんです。お母さんのと、何が違うんだろう……。
──のんさんの故郷・神河町(兵庫県神崎郡)の「地元メシ」を教えてください。
名産は柚や山菜ですかね。給食に山菜混ぜご飯が出てくるんですよ。忘れられないなぁ。あと名産ではないけど、山でよもぎを摘んで、よもぎ餅も作っていました。
──小説のなかで印象に残っている食事シーンはありますか。
岸政彦さんの『図書室』に、世界が終わると思い込んだ少年少女が大晦日にスーパーで缶詰を買いこみ、河川敷の小屋にこもるシーンがあるんです。子供が生まれたら何という名前にするのか、なんてたわいもない話をしながら、缶詰を食べる二人がすごく素敵でした。私も缶詰が好きで、パインの缶を買い込んでは、そのままパクパク食べています。そのたびに、こんなに甘かったっけ、と。
──最後の晩餐では何を食べたいですか。
御馳走を食べるか、普段食べているものを食べるか。二つの選択肢があると思いますけど、私は後者かな。「明日終わる」となったら、めちゃくちゃストレスかかっていますよね。だから、どんなときでも食べられる、みたいな食事がいいかな。なんだろう、うーん、唐揚げですかねぇ。唐揚げは、どんなに大変なときでも食べたくなります(笑)。
──コロナ禍で、のんさんは「#みんなの部屋充」(部屋で充実した生活)を提唱されていました。その間、ご自宅で作った料理は何でしょうか。
竜田揚げを何度も作りました。そして、ことごとくうまくいかない(笑)。最初は生焼けで火が通っていなかった。2回目は小さく半分にして揚げたら火は通ったけど、サイズ感に納得いかず。3回目は大きさを元に戻したけど黒こげになって、4回目も同じ結果。5回目は期間が少し空いたから勘がもどってなくて、これも失敗。誰か作り方教えてください……。
──日頃、書店には行きますか?
定期的に行きますよ。小説とか雑誌のコーナーに足を運びます。私は服も作っているから、型紙本はもちろんのこと、資料になりそうな80s(エイティーズ)や60s(シックスティーズ)の写真集をよく手にとっています。
──のんさんにとって思い出深い一冊は?
木地雅映子さんの『氷の海のガレオン』です。高校生のときに読んで、当時、自分のバイブルになりました。小学生の女の子が主人公なんですけど、思春期ならではの生意気さもありながら、とても鋭い感性で物事を見ているんです。自分1人で生きるには大変な環境である学校という世界に揉まれて、どう自分の意志を保っていくのか。モヤモヤ納得いかないことにどう折り合いをつけていくのか。大きな木に支えられる女の子の姿を頭の中でも思い浮かべて、一緒にホッとできるひと時を感じていました。家族でビールを飲んじゃうところが好きなんです。
──演じたい小説のキャラクターはいますか?
京極夏彦さんの(「百鬼夜行シリーズ」の)榎木津礼二郎みたいな探偵を演じてみたいです。榎木津に妹とかいればぜひ(笑)。いつも男の人の役がうらやましくなる。シャーロック・ホームズも大好きです。ちょっと荒ぶっていて、ぶっとんだ探偵役がやりたいです。
──将来、小説や詩といった文芸に挑戦したい気持ちはないでしょうか?
すっごいハードル高いですよね。でも、すごく興味はある。
詩にイラストをつけて、自分でどっちもやっちゃうみたいな。小説なら、お料理失敗しまくるけど、最後においしいご飯ができるみたいな物語をやりたいです。
──「おいしい小説文庫」の読者に一言いただけますか。
すずさん役を演じた映画『この世界の片隅に』では、食事シーンがたくさんありました。そのときに、「食べること」は一番ストレートな幸せなんだ、と思いました。
毎日食べること、「ああもうすぐ夕飯だ」と考えること、「明日なにを食べようかな」と楽しみにすること……。どれも日常の小さな幸せで、生活を満たすものだと思います。
コロナ禍で大変なことがたくさんあるけれど、小説を読んで幸せな気持ちになれたら、その時間が支えになるのではないかと思います。
のん
1993年生まれ。女優・創作あーちすと。女優・ミュージシャン・絵描き・映画監督など好奇心に素直に活動中。
2021年、監督・脚本・主演を務めた初長編監督作品「Ribbon」が公開予定。
活動の詳細は、のん公式HPへアクセス!
おいしい小説文庫ラインナップ
(撮影/北浦敦子)
〈「STORY BOX」2021年4月号掲載〉