【著者インタビュー】石上智康『[増補版]生きて死ぬ力』/仏法の心をわかりやすい言葉で伝えたい

浄土真宗本願寺派総長を務める石上智康氏が、仏法の大切な教えをわかりやすい言葉で綴った一冊。もはや死を他人事と捉えることはできない、コロナ禍のいまを生きるためのヒントが詰まっています。

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

仏門に入って60年、コロナ禍のいま伝えたい心に沁み入る大切な教えを平易な言葉で綴った「声に出して読みたい」書。

『[増補版]生きて死ぬ力』

中央公論新社 1100円

平成から令和へと変わり、コロナ禍で生死をより身近に感じるようになった。そんな現代の事象と重ね合わせていまをどう生きるべきか、浄土真宗本願寺派総長の石上さんが仏法の心をやさしく説く。’18年刊行の『生きて死ぬ力』に加筆し、バージョンアップ。自分をありのままに受け入れ、命とどう向き合うのか。生き方を見つめ直すヒントが詰まっている。

石上智康

●IWAGAMI CHIKO 1936年東京都生まれ。東京大学印度哲学科修士課程修了。浄土真宗本願寺派総長、龍谷大学理事長、君津光明寺住職などを務め、84才にして現役で活躍。超多忙な日々を送っている。健康の秘訣は朝食前の運動と食生活。「朝食には小豆入りの玄米を欠かさず、テレビ学問ですが"バランスよく腹八分目"を心がけています。あとは、イライラしないことも大事ですね(笑い)」。著書に『生きていく 救われていく』など多数。

最期はひとり裸で死んでいく定めだからこそ「究極の安心」を得られる言葉を伝えたい

 命を精いっぱい生きて、死ぬときは「そのままでいい」―
 84才にして浄土真宗本願寺派総長を務める石上智康さん。仏法の心をわかりやすい言葉で伝えたいと、’18年に『生きて死ぬ力』を刊行。昨年末にはコロナ禍を生きる私たちへ向けて前著に大幅加筆した[増補版]を上梓した。
「豊かで便利な世に暮らす現代人は生きることがメインとなり、死を他人事と捉えてきました。その避けていた死が顕在化したのがこのコロナ禍です。死ぬのは怖いし、死にたくない。そう思うのは人情です。お釈迦様のように悟ることができたなら、いつ死が訪れようと動じない究極の安心が得られますが、こうして法衣を着ている私も肝は据わっていません‥‥。それでも私たちは“生きて死ぬ命”を生きている。生老病死、最期はひとり裸で死んでいく定めなのです」
《その時がくれば その時の姿のまま 死ねば いい(中略)「それで いい」》
 それでいい、とは仏様からの安心の言葉。「死に際してもなんの心配もいらないよ」という大きな救いのメッセージだという。私たちのありのままの存在をふわりと包み込む、温かな言葉が心に沁みる。
《『一切の 生きとし生けるものよ 幸福であれ 安泰であれ 安楽であれ』(仏陀)》
「仏陀の言葉は新たに加えました。この困難な時代に“みんなで幸せになりましょう”という願いです」
 記事のスクラップを日課としている石上さん。著書では仏法の教えと共にレオナルド・ダ・ヴィンチやオバマ元米大統領、金子みすゞなど、様々な人物の言葉が紹介されている。東京大学で印度哲学を学んで仏門へ入り60年。この本は20代から積み重ねた経験をコツコツと書きためてきた集大成だそう。その年月に驚くと「たまに文章を人にほめられるといい気持ちになって、なお書くようになった」と茶目っ気たっぷりに笑った。  石上さんのおすすめは音読。
「言葉を声に出すことで大切な教えが体に染みこんでゆくのです」
 文章は短く、《変化の すがたに とらわれ ない》など、細かい区切りで読みやすい。声に出した数々の言葉が「あなたらしく生きるための助けとなりますように」と、石上さんは話を結んだ。

素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1

Q1 最近読んで面白かった本は?
森島豊さんの『抵抗権と人権の思想史-欧米型と天皇型の攻防-』。人権思想の歴史についてまとめた堅い本です。日本の憲法や将来とも密着した、大事な問題が書かれています。

Q2 最近気になっている出来事は?
中国の動向、相対する自由と民主主義の将来性を案じています。人権思想、独裁、自由、民主主義‥‥そうした既存の枠組みを超える人類共存の新しい理念なくして、この先のグローバル社会の展望は開けないと思います。

Q3 好きなテレビ番組は?
賑やかではない、落ち着いたニュース番組。

Q4 趣味は何ですか?
日常の中でドキッとするような言葉や人、仕事などに出会うことです。ドキッと心が動いたら、すぐにメモや切り抜きをしています。

Q5 運動はしていますか?
エスカレーターは使わず階段はどこでも必ず歩く。東京駅の長い階段も歩きますよ。還暦を過ぎてからは朝食前に10分ほど、自己流の運動もしています。

Q6 リラックスする時間は?
単身赴任先でひとり静かにごはんを食べ、少しお酒をのむ時間に寛ぎます。84才にもなると、人間に少し飽きてくるのかな(笑い)。

●取材・構成/渡部美也
●撮影/藤岡雅樹

(女性セブン 2021年2.4号より)

初出:P+D MAGAZINE(2021/03/27)

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