◎編集者コラム◎ 『まぎわのごはん』藤ノ木 優
◎編集者コラム◎
『まぎわのごはん』藤ノ木 優
小説『まぎわのごはん』の編集業務を担当させていただきました、A田と申します。
先日、フェイスブックを開いたところ「7年前を振り返ろう」というメッセージとともに、友人と撮影した一枚の写真が目に入ってきました。
なんてことはない写真なのですが、そこに写る笑顔の友人を見て、私は『まぎわのごはん』の著者である藤ノ木 優先生が、本作に込めた想いを語っていた時のことを思い出していました。
本作『まぎわのごはん』は弊社・小学館が主催する第2回「日本おいしい小説大賞」の最終候補作に選出された作品です。
糖尿病、腎炎、がんなど。様々な病気を抱える人たちが集まる、患者専門の食事処を舞台に、若き料理人の葛藤と成長を描いた物語です。
著者の藤ノ木先生は現役のお医者様で、それゆえに作品内で描かれる病気と対峙するシーンはとてもリアルで、思わず目を背けたくなるものもありました。しかし同時に、そこには病と向き合う人たちへの「希望」が描かれていました。
藤ノ木先生との打ち合わせの中で、「なんで小説を書こうと思ったのですか?」と質問したことがありました。その問いに対して藤ノ木先生は「物語の力でしか伝えられない、希望を書きたかったから」とお答えになられていました。
それは、お医者様として日々患者様と向き合う中で、医師としては口に出せない「希望」の形を、藤ノ木先生がずっと模索されていたからなのかもしれません。
7年前一緒に写真を撮った友人は今、ある大病と闘っています。この友人が7年後、過酷な闘病生活をしいられるとは、当時は夢にも思っていませんでした。
そのことを思い返すたび、〝人生なんて、いつ、何が起こるか分からない。日常は貴重なのだ。〟という本作に描かれた言葉が胸をよぎります。
大切な人のつらい現実を前に、自分は何ができるのか。そして明日、いや今日まさに自分が重い病と対峙することになったら……。
そんな時にどうすればよいか。そこに方程式のような、決まった答えはないのかもしれません。しかし、その途方もない問に真摯に向き合い続けた一人の医師の答えが、本作には描かれていると思います。
この作品が、今まさに悩み、苦しむ人たちの心にそっと寄り添い、支えとなってくれれば。そう切に願いながら、本コラムを終えたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
──『まぎわのごはん』担当者より
『まぎわのごはん』
藤ノ木 優