ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第62回
自分のサクセスより、
他人の大コケが欲しい。
現在「今日あたり催促がくるだろうな」という風の声を聞いてこの原稿に向かっているのだが、書くことがない。
そもそも漫画家の生活に隔週で何か起こるわけがないのだ。
漫画家にとってホットなニュースと言えば、アニメ化、ドラマ化、もしくは打ち切りである。
私の場合前二者の可能性が閉ざされているため、後者頼みになっているのだが、残念ながら頼みの綱である打ち切りニュースもこの2週間の間には届いてないので、もう2週間待ってほしい。
だが、もし隔週で打ち切られ続けようとしたら、隔週で新連載を立ち上げているということになるので、それは1周回って「人気がある」と言って良いような気がする。
だが最近「スペース」という、ツイッターのボイスチャット機能で、本当に人気がある漫画家と話す機会が幾度となくあった。
私は泉から出てきた女神の、「自分が描いた漫画のサクセス」と「他人が描いた漫画の大コケ」どちらが欲しいですかという問いに、「もちろん他人のノーサクセスです」と答え「貴方はとても正直な人ですね、マジで引く」と、どちらも与えられず額に唾液だけ頂戴したことがある人間だ。
正直売れている作家などと話したくないし、初対面の人と同席するたびに「売れているから読んでないし、読んでないけど嫌い」と、アマゾンに買ってないのに☆1レビューをつける輩あいさつをしなければいけないのも苦痛である。
しかし、逆に私が「大好きです、いつも読んでます」と言うのは、京都人が「さすが大阪の人は頭よろしおすドスはりますな」レベルの侮辱と取られる恐れがある。
そんなに嫌なら、漫画家が集まりそうな部屋にいかなければいい、と思うかもしれないし、私もぜひそうしたいのだが、他に私が入れそうな部屋というのも皆無なのである。
そもそも、共通点のない相手と初対面で歓談できるような人間だったら、今こんな有様にはなっていないのだ。
一時期「オタ婚活」というのが話題になった。
それに対し「オタク同士集めときゃ仲良くできるだろうなんて、雑過ぎる。オタクと言ってもジャンルは様々であり、むしろジャンルがかぶってしまったせいで、同担拒否や、逆カプ、解釈違いなど、結婚どころか、相手をいない物として扱わなければいけなくなるし、それが出来ないなら、戦争じゃ」という、拒否反応もあったが、それでも「話すきっかけ」があるというのは大きい。
もし、何のとっかかりもなく、年齢と年収だけでマッチングされたような婚活だと、最初は「ご趣味は」とか「休日何している」など「スーパー眠たいゾーン」を突破し、共通点や盛り上がる話題を探していかなければならない。
またオタクであれば「いつオタクであることを相手に言うか」もしくは「アクリルキーホルダーで徐々に匂わせていく」なども考えなければいけない。