飲みながら読みたいおつまみ小説vol.2

『月と六ペンス』サマセット・モーム。凡人だらけの世の中に
絶対に必要なものや変革を生む人は狂気的だ。
書店員名前
紀伊國屋書店天神イムズ店(福岡) 嘉村佳奈さん

 早いものでもう年末、飲み事の多い季節がやってきました。いい気分に酔っ払って家路につき、その日起きた出来事や話した事に思いを馳せながら本をめくる事ができる、幸せな季節です。今日は、帰ってもう一杯飲みながら読みたい小説を三つ、ご紹介します。お疲れ様の代わりに、美味しいお酒と次の日を少しいい日にしてくれそうな本と過ごす夜をどうぞ。

ぎっちょんちょん
新潮文庫

『ぎっちょんちょん』群ようこ。平凡な人生を歩んできたエリコ。短大を卒業し、職場で出会った人と結婚した。夫と子供が主人公の生活で、何をするにも気になるのは二人の事ばかり。夫との離婚と子供の反抗期にもう何も残されていないような気分の時に、エリコは生涯をかけて夢中になれるものに出合う。夢中になれるものを知ると、どんどんその世界に興味が湧いて、自分の無知が知れる。無知を自覚する事は悔しいし苦しいけれど、知っていく喜びには敵わない。柚子小町のすっきりソーダ割と、きゅうりの酢の物とどうぞ。人は誰しも夢中になれるものがあって、きっと、それは人生を彩ってくれる。

 

リーチ先生
集英社

『リーチ先生』原田マハ。日本の美を愛し続けた英国人陶芸家、バーナード・リーチ。東西の美が行き交い、影響しあった時代の実在の人物。でも、物語はフィクションで主人公は亀ちゃんというリーチ先生の助手。いつも先生を支え学び取ろうとした亀ちゃん。後世に作品と名前が残るかどうかではなくてどう生きたか。ぎいい、ごっとん。物語に出てくる小鹿田に行くと今でも陶芸の里ならではの音が響く。お湯割のいいちこフラスコボトルときゅっとカボスを絞った大根おろしとどうぞ。時代を経て目に見えて残る仕事と、その為になった仕事は等しく大切だと思う。

 

月と六ペンス
新潮文庫

『月と六ペンス』サマセット・モーム。真面目だった中年の男が急に家族を捨て、パリに向かう。理由は絵を描くため。この狂気的な衝動は神から与えられたとしか言いようがない。成功の意味は一つではなく、人生になにを求めるか、社会になにを求めるか、個人としてなにを求めるかで変わってくる。彼にとっての成功は自分が何を求めているか明確に感じ、行動できたことだ。癖の強いこの小説は癖の強いウイスキーラフロイグをオンザロックで。おつまみはなしで、ちびちびとどうぞ。凡人だらけの世の中に絶対に必要なものや変革を生む人は狂気的だ。

 

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