クリぼっちでも寂しくない!クリスマス小説からクリスマスの過ごし方を学ぼう。

「クリスマスを一緒に過ごす人がいない」、「クリスマスの予定がない」と嘆く方、必見。素敵なクリスマスの過ごし方を小説から学びましょう。

イルミネーションで飾られた街路樹、テレビやラジオではクリスマスソングが流れる季節。皆さんは今年のクリスマス、どのように過ごす予定でしょうか。

恋人と過ごす、家族で豪華なディナーを楽しむ、親しい友人とパーティーをするなど、すでに予定がある人も、「仕事でそれどころじゃない」、「クリスマス?何それ美味しいの?」と今からイライラしている人もいることでしょう。巷では恋人のいない人がひとりでクリスマスを過ごすことを「クリぼっち」と呼び、人によっては哀れみの目で見られることもあるのだとか。

そんなクリぼっちな方々に、P+D MAGAZINEはこう提案します。

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クリスマスを題材にした小説から、クリスマスの過ごし方を学ぶ。そうして充実したクリスマスを過ごせば、「あいつ、彼女とディズニーシー行ってやがる。風邪ひいて年末寝込めばいいのに」、「あの子、彼氏からもらったアクセサリーを明日にはネットオークションに出してるんだろうな」と悪態をついた後の虚しさを味わうこともないでしょう。

では早速、今年のクリスマスを充実させるための過ごし方を提案します!

 

提案1.昔馴染みの人と飲みに行く

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太宰治による短編小説『メリイクリスマス』(新潮文庫『グッド・バイ』収録)は、戦時中に暮らしていた津軽から東京へ戻ってきた男、笠井がとある女性と再会したことから幕を開けます。

「笠井さん。」女のひとはつぶやくように私の名を言い、かかとをおろしてかすかなお辞儀をした。
 緑色の帽子をかぶり、帽子のひもあごで結び、真赤なレンコオトを着ている。見る見るそのひとは若くなって、まるで十二、三の少女になり、私の思い出の中の或る影像とぴったり重って来た。

緑色の帽子に真っ赤なコートというクリスマスカラーの服に身を包んだ女性は、笠井とかつて交流があった女性の娘、シズエ子でした。すっかり嬉しくなった笠井は母を訪問しようと提案しますが、家の前まで来てシズエ子から「母は広島の空襲で亡くなった」と知らされます。

そのまま笠井はシズエ子を連れ、うなぎ屋へと足を運ぶのでした。

「いらっしゃいまし。」
 客は、立ちんぼの客は私たち二人だけで、屋台の奥に腰かけて飲んでいる紳士がひとり。
大串おおぐしがよござんすか、小串が?」
「小串を。三人前。」
「へえ、承知しました。」
 その若い主人は、江戸っ子らしく見えた。ばたばたと威勢よく七輪しちりんをあおぐ。
「お皿を、三人、べつべつにしてくれ。」
「へえ。もうひとかたは? あとで?」
「三人いるじゃないか。」私は笑わずに言った。
「へ?」
「このひとと、僕とのあいだに、もうひとり、心配そうな顔をしたべっぴんさんが、いるじゃねえか。」こんどは私も少し笑って言った。
 若い主人は、私の言葉を何と解したのか、
「や、かなわねえ。」
 と言って笑い、鉢巻はちまきの結び目のところあたりへ片手をやった。
「これ、あるか。」私は左手で飲む真似まねをして見せた。
「極上がございます。いや、そうでもねえか。」
「コップで三つ。」と私は言った。
 小串の皿が三枚、私たちの前に並べられた。私たちは、まんなかの皿はそのままにして、両端の皿にそれぞれはしをつけた。やがてなみなみと酒が充たされたコップも三つ、並べられた。

亡くなった母を弔うかのように、笠井は3人前のうなぎと酒を注文します。店主と客のくだらない冗談に耳を傾けながら、残った一切れのうなぎを分け合うふたり。太宰は戦後の東京と、そこに暮らす人々の姿を、優しい目線で描いたのです。

偶然の再会から、心温まるような人との触れ合いを中心とした『メリイクリスマス』。笠井のように、街中で偶然顔見知りと会ったら、飲みに誘ってみるのも良いでしょう。その際には小綺麗なお店ではなく、赤提灯に照らされるような昔ながらのお店を選んでみては。

 

提案2.街中で出会った人とクリスマスの思い出を語り合う。

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「そんなこと言ったって、偶然知り合いに会って誘っても、断られたらどうするんだ」とお思いの方もいるかもしれません。しかし、クリスマスをともに過ごすのは、昔馴染みの人でなくてもいいのです。

見事な物語構成と魅力たっぷりのキャラクターが人気の作家、伊坂幸太郎の作品『クリスマスを探偵と』では、主人公のカールが公園のベンチで出会った男とクリスマスについて雑談するシーンが登場します。

クリスマスの夜、とある男の浮気調査のためドイツのローテンブルクにやってきた探偵のカール。カールは張り込みのため立ち寄った公園で、寒空の下、読書をする男に話しかけられます。

サンドラと名乗った男とカールは政治やスポーツについて話し合ううち、話題はサンタクロースへと移ります。

悪い子には、サンタクロースは来ず、二人の鬼クランプスがやってくる、と言われる。あれはどうやらドイツならではの話なんだってな、と言うと男も、「サンタクロースやクリスマスの話は世界各地でばらばららしいですよ」と肩をすくめた。「サーカス団の演し物はだいたいどこでも似たりよったりなのに。とはいえ、どの国の子供もサンタクロースを待ち望んでいるのは間違いないかもしれませんね」
「それはないな」カールは反射的に強い言い方をしていた。
「え」
「本気で、サンタクロースがやってくるなんてことを信じている子供が、世の中にどれくらいいるのか。たいがいの子はそんなのが作り話だって知っているんじゃないか。なあ、君もそうだろ」

「世界中の子供がサンタクロースを待ち望んでいる」と話すサンドラに、カールは反論を行います。

カールもかつては、年に1度のクリスマスを指折り数えて待つ子供でした。15歳になるまでサンタクロースを信じていた彼に一体何があったのか。それは「貧しい自分の家ではとうてい買えないほど高価なものをプレゼントで頼んだらボロが出るのではないか」とサンタクロースの存在を証明しようとしたことがきっかけでした。

「自転車が欲しい」という息子のために父親は妻の大事な指輪を売ってプレゼント代を捻出しましたが、結果として夫婦仲は険悪に。罪の意識に耐えきれなかったカールは、家を飛び出すこととなったのです。

サンドラは過去の出来事を悔やむカールに対して「あなたの父親は本当にサンタクロースだったのではないか」と話します。「サッカーチームの監督をしているわりに試合に連れて行ってくれないのは、トナカイの管理をしていたから」、「年末近くに帳簿をつけていたのは、プレゼントをリスト化していたから」と半ばこじつけのようなサンドラの話に最初は呆れていたカールも、次第に引き込まれていくのでした。果たしてそんなサンドラが導く結論とは。そして彼の本当の正体とは……そんなクリスマスの奇跡は、ぜひあなたの目で確かめてみてください。

あなたもカールのように、クリスマスの日に偶然出会った人と「サンタクロースを信じていたのは、いつまでだったか」を語り合ってはいかがでしょうか。純粋にサンタクロースを信じていた頃、クリスマスが待ち遠しかった頃を思い返すことで幸せな気持ちになれるかもしれません。

 

提案3.家でひっそりと過ごす。

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ユーモアたっぷりの語り口と痛烈な批判でファンが多い星新一。クリスマス・イブの夜を舞台にしたショートショート『ある夜の物語』(『未来いそっぷ』収録)は、とある青年のもとにサンタクロースがやってきたことから幕を開けます。

去年のクリスマス・イブに「恋人を作り、イブをいっしょに過ごしたいものだな」と思っていたものの、結局ひとり寂しいクリスマス・イブを過ごさなければいけない青年。小型ラジオから流れるクリスマスソングを聴きながら、お酒を飲んで寝てしまった彼は、すぐそばにサンタクロースが立っていることに気がつきます。

「今年はどこを訪れようかと空をただよっていたら、寂しげなものを感じた」という理由から青年の元を訪れたサンタクロースは、「なにか贈り物をあげます。望みのものを言ってください」と申し出ます。

遊んで暮らせるほどの大金、誰もが羨むような恋人、会社での昇進……と青年はサンタクロースの申し出に心躍らせますが、同時に心に変化が起こったことに気がつきます。

「ぼくが辞退したら、あなたはよそを訪れることになるのですか」
「それがお望みならばね」
「ぼくがいま、なぜこんな気まぐれを思いついたのかわからないし、ばかげたことだとも気づいています。しかし、あなたのおくりものを受ける権利が、ぼくにあるかどうか。それが気になってきました。権利というより資格といったほうがいい。ぼくよりも、もっと気の毒な人がいるはずだ。そっちへ行ってあげたほうがいいんじゃないでしょうか。

それからサンタクロースは病気の少女、金貸しの男、危険な思想を持つ団体のもとに順々に訪れます。彼らはいずれもサンタクロースに「別の人に権利を譲る」ことを選びますが、「権利を自分に譲ってくれた人がいる」ことに感動し、幸せな気持ちでクリスマス・イブの夜を過ごすのでした。

冒頭でクリぼっちだった青年も、サンタクロースが去っていった後に満足感を覚えています。外に出るのではなく、ひとり家でクリスマスを過ごしていれば、もしかしたらあなたにもサンタクロースがやってくるかもしれません。その時、あなたはどんな行動に出るのでしょうか。

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星新一は予言者だった?ショートショートで予言した未来7選。

 

提案4.同性の友人たちと過ごす。

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冴えない男子大学生の日常を描いたら右に出るものはいない作家、森見登美彦。そのデビュー作である『太陽の塔』は、「研究」と称してかつて自分を振った女性をつけ回す主人公、森本が友人たちとクリスマス打倒のために奔走する物語です。

「諸君。先日、元田中でじつに不幸な出来事があった。平和なコンビニに白昼堂々クリスマスケーキが押し入り、共にクリスマスケーキを分け合う相手とていない、清く正しく生きる学生たちが心に傷を負ったのである。このような暴虐を看過することが出来ようか。否、断じて否である。昨今、世の中にはクリスマスという悪霊がはびこっている。日本人がクリスマスを祝うという不条理には、この際目をつぶろう。子供たちに夢を与えるのも結構だ、たとえそれがケルトの信仰を起源とする正体不明の白髭ジジイが叶える「物欲」という夢であっても。」

『太陽の塔』ではクリスマスを怪物や悪霊と、悪いものであるかのように扱います。確かに、秋も終わりに近づく頃になれば、クリぼっちを回避したい人々はどうにかして恋人を作ろうと必死になり、運良くクリスマスを一緒に過ごす相手が見つかれば途端に「寂しくない?」、「理想が高いから今年もひとりなんだよ」と上から目線になることも珍しくないでしょう。

そんなクリスマスに恋人と過ごす“リア充”(※1)をどこか小馬鹿にしながらも、心のどこかで羨ましいと思ってしまう男たちのどこか憎めない日常が描かれています。

この物語のように、恋人はいなかったとしても、気を許せる同性の友人たちと聖なる夜を過ごしてみるのも良いかもしれません。

※1:恋人がいるといったように、リアル(現実)での生活が充実している人のこと

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クリスマス小説を読んで、素敵なクリスマスを過ごそう。

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クリスマスが近づくと途端に憂うつになる人もいますが、せっかくならば素敵なイベントにしたいもの。クリスマス小説は、そんな聖夜の奇跡を描いているものが多いため、「クリスマスムードの街を歩くのが辛い」というあなたも、きっと心温まるはずです。

今年はぜひクリスマス小説から学んだ過ごし方をもとに、素敵なクリスマスを過ごしてみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2017/12/20)

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