スピリチュアル探偵 第13回

スピリチュアル探偵 第13回
2013年に、東京オリンピックが開催されない
ことを予言した霊能者がいた!
本物を求め、今日も調査は続く。

 いやはや、世の中には凄い人がいるもので、2013年の時点で「東京オリンピックは開催されません」と予言してのけた霊能者が存在します。

 メディアにもよく取り上げられている方なので、ピンときた人もいるかもしれません。そもそもは東日本大震災を予言して注目された人で、オリンピックの招致が決まった直後に開催を否定する勇気に、当時はひたすら感心したものです。まさか的中してしまうとは……(今のところあくまで「延期」ではありますが)。

 さらにはこの先生、おそろしいことに中国から広まったウイルスにより、パンデミックが宣言されることまで、2019年初頭に予言しています。こちらは雑誌の連載コラムの中で書かれたものでした。

 とはいえ、この先生が本物なのかどうか、僕にはわかりません。「単なる偶然だ!」とか「ハズした予言もたくさんある」といった主張もきっとあるでしょう。ただ、あのタイミングで「オリンピックは開催されない」というエキセントリックな予言を口にするのは、霊能者としてとてつもなくリスキーであったはず。インチキならまずやらない手法です。

 僕が追い求めているのは、まさしくそういうレベルの霊能者。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、不謹慎にもスピリチュアル探偵としての使命感をいっそう燃え上がらせていた僕なのでした。

〈CASE.13〉スピリチュアルお見合いおばさんに、がっつり結婚相談してみた

 さてさて。今回ご紹介するのは、まだパンデミックなどまったく現実味がなかった、数年前の平和な時代の事例です。大きな仕事をひとつ終えて、時間にゆとりができた僕は、手元のメモをパラパラとやりながら次のめぼしいターゲットを物色し始めました。

 世の中、占い師を含めればスピリチュアルを稼業にする人は存外に多いもので、僕の元にも日々、様々な情報が寄せられます。そして、気になる先生はすべてメモしておいて、時間ができたらランダムにあたっていくのが基本スタイル。この時ふと目にとまったのは、「お見合い相談所。霊感あり」という、ごく短い一文でした。

「なにこの超面白そうな案件……!」

 いつ誰に紹介されたネタなのかすぐには思い出せなかったものの、俄然、色めき立つ僕。記憶をたぐってみると、たしかお見合い相談所のカウンセラーがスピリチュアルな能力を持っている、という話だったはず。もしかすると、霊視を駆使して運命の相手を教えてくれるのかもしれません。

 メモには都内某所の住所と電話番号が添えられています。これはもっと早く直撃するべきでした。すでに廃業してたらどうしようと、ドキドキしながらメモの番号にかけてみると、ものの2コールくらいで「はい、◯◯株式会社です」と若い女性の声が聞こえてきました。

「あ、あれ。すいません、そちらはお見合い相談所ではなかったですか?」
「ああ、『縁結び商会(仮名)』のお客さんですね。電話まわしますので、ちょっとお待ちください」

 よかった。お見合いとはまったく関係なさそうな会社名を名乗られて慌ててしまいましたが、しっかり営業しているようです。

「所長」を名乗る女性にアポイント

「──お電話代わりました、所長の××です」

 今度は快活な中年女性の声。どうやって面会のアポイントを取るか悩みましたが、ここは正攻法で客になりきり、「お見合い相談の予約をお願いしたいのですが……」と告げてみることにしました。

「はいはい、いつ頃がよろしいのかしら?」
「空きがあるようなら、さっそく来週にでも伺えればと」
「大丈夫よ。では週明けの月曜日の午後1時ではいかが?」
「あ、ではそこでお願いします」

 テキパキ、サクサクとアポイントが確定。そして所長の肩書を名乗ったその女性は、その場でこちらの名前と電話番号、職業、生年月日、血液型、そして年収を聞いてきました。

 いきなり個人情報をフルに持っていかれることに抵抗はあったものの、勢いに飲まれて素直に答えてしまう僕。どうやら、希望条件が僕のスペックと合致する女性を、あらかじめリストアップしておいてくれるようです。うっかり年収を盛っておいてよかった!

「あなた、ご職業のライターというのは、具体的にはどんなことをされているの?」
「雑誌やウェブに記事を書いたり、本を書いたりしています」
「あら、すごいじゃない。作家さんってこと?」
「いやいや、しがない物書きです。とくに本が売れてるわけでもないので」
「そういう職業の男性、人気あるのよ。大丈夫、すぐにいい相手が見つかると思うわ」

 え、ホントに? ……おっと、本来の目的を忘れてしまうところでした。僕が求めているのはお見合い相手ではありません。

「あの、こちらでは占いか何かをセットでやられていると聞いたのですが……」

 すると女性は、「ああ、はいはい。お望みならそういうのもやるわよ。そっちは単なる私の趣味だけど」と言います。これだけ個人情報を開陳したからには後に引けなかったので、この言葉にホッとひと安心。

「では月曜日に」。そう言って電話を切った僕は、ワクワクとその日を心待ちにしたのでした。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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