スピリチュアル探偵 第13回

スピリチュアル探偵 第13回
2013年に、東京オリンピックが開催されない
ことを予言した霊能者がいた!
本物を求め、今日も調査は続く。


お見合いおばさん、ついに能力を発動?

 所長は占いめいた道具を取り出すわけでもなく、「私がやるのはオーラ診断なの」と、そのまま少し姿勢を正して、じっと僕の目を見てきます。さっきまでずーっとペラペラしゃべっていた人なので、突然の静寂がなんだかすごく新鮮です。

 僕としてはそのまま所長の目を見つめ返すのも変ですし、どうしたものかと困り果てること1分少々。所長は手元に紙を用意して、僕の生年月日を元に何やら計算を始め、さらに「ええと、あなたは寅年にあたるのよね」などと言いながら、火・水・木・金・土の5文字を円形に配置して書き出しました。どうやら四柱推命と霊視の合わせ技がこの人の持ち味のようです。

「あなた、すごくいい時期にいらしたわよ」
「ほう。と言いますと?」
「結婚ってね、運気の波にすごく左右されるの。結婚力が高まる時期とそうでない時期があって、今はものすごく高まっているタイミングなの」
「なんと、そうだったんですね」
「こういう波を逃すと、どんなにモテる人でもうまくいかないものよ。ほら、美人なのになぜか独身の女性っているでしょ。あれはまさに波を逃してしまってるからよ」

 あかん。何を言われても営業トークにしか聞こえない。そう言っておけば、結婚を焦って財布の紐がゆるむと思われている気がしてなりません。

「さらに言うとね、そういう運気はオーラにも表れるものだから、私は先天運とオーラの両方から、流れを入念にチェックするようにしているの。だから間違いないわよ」
「はあ、そういうものですか」

 ちなみに先天運というのは、持って生まれた運勢なのだそう。僕が再婚を望んでいるのは事実なので、本当にそういう運の流れが存在するなら無視するわけにはいきませんが……。

「ちなみに、僕のオーラは何色なんですか?」
「今はオレンジ色に近いわね。これってとてもいいことよ。オレンジは創造性を高める色だから」

 そういえば、オーラが見えるという人に、何度か似たようなことを言われたことがあります(第2回参照)。本当に見えているのかどうかはともかく、オーラのセオリーはちゃんと踏まえているのかもしれません。

「強いオレンジに緑が混じっているのがあなたの特徴なの。緑は調和や社交性を意味する色だから、これが強めに出ているってことは、今まさに自分の個性を受け入れてくれる相手と結ばれやすいってことなのよ」

 つまりはオレンジと緑の斑模様。うーん、爬虫類なら毒を持ってそうなカラーリングですよね。

2万の女性会員は魅力ながら……営業攻勢に辟易

 それでもとりあえず、ノリノリでオーラを語る所長に合わせて、「へえ」と「なるほど」を繰り返す僕。もはや最後のほうはちゃんと聞いていませんでしたが、彼女の言い分は、とにかく僕は今すぐにでも結婚すべきであり、ひいては積極的にうちの女性会員と会いなさい(意訳)、ということで一貫しています。

 本音をいえば、2万人も会員がいるならマジで1人くらい僕にぴったりの女性が埋もれているのではという期待もありますが、提示されるお相手と片っ端から会っていたら、最終的にいくらふんだくられるかわかりません。

 スピリチュアル的にも実に微妙。仮に、本当にオーラが見えているとしても、それが営業ツールになっているのでは興醒めというものです。

 結局この日は、「求める女性像をもう少し固めてから、またあらためてお願いします」と言って逃げました。オーラ鑑定料を別に請求されるんじゃないかとヒヤヒヤしましたが、幸いにしてそれは無し。妙なところで気前のいい所長なのでした。

 困ったのは、実はこのあとです。この日以来、わりと頻繁に所長から電話がかかってくるようになり、矢のような営業攻勢をかけられるはめに。「また新しい女性会員が増えた」とか「とにかく男性会員が足りない」とか、なんともマメなことだと感心しますが、1人捕まえれば5万円の入会金が入るのだから、効率のいい商売なのかもしれませんね。

 そうした営業トークに2週間ほどやんわりお付き合いした後、僕は静かに着信拒否設定をして、お見合いおばさんに別れを告げました。結論として、「やっぱ合コンのほうが性に合うわ……」と強く実感したのを覚えています。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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