スピリチュアル探偵 第13回

スピリチュアル探偵 第13回
2013年に、東京オリンピックが開催されない
ことを予言した霊能者がいた!
本物を求め、今日も調査は続く。


待っていたのは典型的なお見合いおばさんでした

 そして迎えた月曜日。僕は一目散に『縁結び商会(仮名)』のオフィスへ向かいます。

 オフィスといっても、そこは雑居ビルの一室を細かく区切った小さなスペースで、おそらくはシェアオフィスの類いなのでしょう。固定電話も他の同居者と共有していたわけです。

 お目当ての『縁結び商会(仮名)』のスペースはと言えば、ファイルや書籍がぎっちり詰まったラックに囲まれ、事務机を挟んで「所長」と向かい合えばもう満杯という手狭さ。今なら密が過ぎて怒られそうな空間です。

 名乗るまでもなくこちらを認識した所長の女性は、「どうぞお座りになって」と僕を対面の事務椅子に促しました。そして挨拶もそこそこに、3枚ほどのプリントを机上に広げます。そこにはそれぞれ、会員らしき女性のプロフィールが写真入りで載っていました。

「さっそくだけど、あなたの条件を理想としている女性会員が大勢いるのよ」
「え、そうなんですか? それは嬉しいすね」
「とりあえず3人だけ見繕ってみたけど、まだまだこんなものじゃないから。あなたの希望を聞いた上で絞り込んでいきましょう」

 老眼鏡をかけながら、流暢にそう語る所長。まじまじとプリントに目を落とすと、いずれもびっくりするくらい美しい女性が並んでいるではありませんか。

「で、あなたはどんな女性がお好みかしら。年齢でも職業でも、まずは希望の条件を何でも遠慮なく言ってみてくださる?」

 矢継ぎ早に言葉を紡ぐ所長。これは電話口でも感じたことですが、この人にとって僕は「お客さん」ではなく、あくまで「相談者」であるのが口調からわかります。

「いやあ希望も何も、この3人だったら誰でも文句ないですよ」
「ダメダメ。うちは女性だけで2万人以上の会員がいるんだから、もっとちゃんと選ばないと!」

 所長はそう言いながら、ラックからファイルを取り出してパラパラやると、さらに数名の女性プロフィールを抜き出して僕の前に広げました。

「ほら、たとえばこの方は△△社(某大手家電メーカー)に勤めていらして、すごく真面目でしっかりした人なのよ」
「この方なんてどう? 年齢も近いし、お料理が得意だそうだから、きっといい奥さんになるわ」
「この方は読書が趣味だそうよ。職業からしても、あなたとはきっと相性いいと思うの」

 こ、これが俗に言う「お見合いおばさん」というやつか……! いきなりペースを握られてしまった感じですが、これはお節介ではなく、向こうにとってはあくまでビジネスであることを忘れてはいけません。

次々に提示される僕のお嫁さん候補たち

 そうこうしているうちに、さらにもう2人分の女性プロフィールをファイルから抜き出し、僕の前に差し出す所長。

 捲し立てるようにカードを切ってくる所長に怯みながらも、ここであることに気づきました。あえて言葉を選ばずに言うと、最初に用意されていた3人がモデル級の美女であったのに対し、あとから出してきた5人の女性は、大変失礼ながら外見的にはっきりとランクが落ちるのです。

 要はあからさまな撒き餌をちらつかせる、あざとい手法が見え隠れします。こうなると、こちらも警戒して臨まねばなりません。

 そういえば、料金体系はどうなっているのでしょうか。降り注ぐ所長のプレゼンの合間を縫って、「どういうシステムになっているんですか?」と口を挟むと、所長は慣れた口調で次のように説明してくれました。

 なんでも、入会金が5万円。毎月の会費が1万円。そして気に入った女性会員とのお見合いをセッティングしてもらうのに5000円。さらに首尾よく成婚した暁には、10万円の成功報酬を支払わなければならないのだそうです。

 つまり、このおばさんに紹介された女性と結婚しようものなら、最短距離を行っても16万5000円のコストが必要なわけです。この業界の相場はまったくわかりませんが、率直に「高い」のひと言。

 それでも需要があるからこうした強気な値付けが成立しているのでしょうが、説明の合間に盛り込まれるあざとい営業トークが、いちいち引っかかってしまう僕。やれ「女性会員のほうが多くて、男性がまったく足りていないの」だの、「うちの場合、男性は引く手あまただから」だの、うまい言葉のオンパレードです。

 それに何より、さっきからスピリチュアルのスの字も出てきません。僕は一体、何をしに来たのか。これではいけない。スピリチュアル探偵モードにスイッチを切り替えましょう。

「皆さん素敵な方ばかりなので、迷っちゃいますね」
「でしょう? とりあえず順にお会いしてみたらどうかしら」

 ここでYesと答えようものなら、入会金と月会費、さらにデートのセッティング料を人数分ふんだくられるというカラクリ。その手にのるわけにはいきません。そこで──。

「仕事柄、生活が不規則なもので。何人かお会いするにしても、できればもう少し絞ってから相手を決めたいのですが」
「そうよね。じゃ、具体的な条件をもういくつか挙げてみて」
「あの、それよりも。お電話で少しおっしゃっていた、占い的なやつで絞り込んでいただくことはできませんか?」

 すると所長は、「ああ、そうね。やってみましょうか」と、あっさり受託。ふう、こちらとしてはようやく本題です。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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