今月のイチオシ本 デビュー小説 大森 望
2017年の小説界でいちばん大きな話題を集めたデビュー単行本は、たぶんこれだろう。本書発売と同時に14歳の誕生日を迎えた著者・鈴木るりかは、新聞やテレビでも“驚異のスーパー中学生„としてひっぱりだこだが、彼女がすごいのは、中2にしてすでに、赫奕たる実績を積んでいること。小学館が主催する公募新人賞「12歳の文学賞」で3年連続大賞受賞という快挙をなしとげ、初受賞(小学校4年生当時)から数えても、キャリアは4年に及ぶ。まさに、満を持しての単行本デビューなのである。
本の中身は、小学6年生の女の子・田中花実を主人公にした5編の連作(うち2編が「12歳の文学賞」大賞受賞作の改稿版で、表題作を含む他の3編が書き下ろし)。花実の母親は、男に交じって工事現場で働く、たくましくて豪快なシングルマザー。ガリガリの痩せっぽちなのに大食いで、「人からもらった食べ物は、すぐ食え。後で返せと言われないうちに」がモットー。どうやら施設で育ったらしいが、多くを語らず、何があってもガハハと笑い飛ばしている。
4編は花実が語り手だが、巻末の表題作だけは、花実の同級生・信也の視点から語られる。兄と姉は私立の有名校に進学したのに、なぜか信也だけは塾に通っても成績が上がらず、母親の期待を裏切りつづける。学校でも、些細な誤解からエロ信也(エロ神)と呼ばれ、女子から総スカンを食う。そんな彼にひとりだけ優しく接してくれたのが、隣の席の田中花実だった……。絶望のどん底にある信也に、花実の母親は言う。「もし死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ」
シンプルすぎるこの生活哲学が、八方ふさがりの信也に光をもたらす。生き生きしたキャラクターと鮮やかなディテールのおかげで、いい気分になれる一冊。小学生や中学生で作家デビューして大成した例は少ないが(高校生デビューなら、新井素子、綿矢りさ、羽田圭介など多数)、鈴木るりかは、その希有な例外となる可能性充分の大型新人だ。