採れたて本!【デビュー#38】

吉良信吾『沈黙と爆弾』は、第4回警察小説新人賞受賞作。前身の警察小説大賞(2019年〜2021年)から数えると、(前作は「受賞作なし」だったので)本書が6冊目の受賞作ということになる。
警察小説も警察ドラマも山ほどあるし、警察小説のアンソロジーも複数出ているが、警察小説に焦点を絞った公募新人賞はこの賞だけ。もっとも、警察小説新人賞の第1回受賞作は、江戸を舞台にした時代ミステリー、麻宮好『恩送り 泥濘の十手』(受賞時タイトル「泥濘の十手」)だったから、カバーする範囲は意外と広い。
『沈黙と爆弾』の舞台は、現代の熊本市。主人公は熊本県警察本部警務部監察課に所属する阿玉清治警部補。最年少監察官になるのは確実と言われた逸材だったが、妻の成美が育児ノイローゼからスーパーで常習的に万引きをして捕まったことから、阿玉は出世の道を閉ざされてしまう。いまや、首席監察官の手駒として便利に使われる立場になり、県警のルンルン(ルンバ的なお掃除ロボット)と陰であだ名される始末。しかも、小学生の長男は、熊本地震をきっかけに失声症を患い、妻からは離婚を求められている。
そんな八方ふさがりの状況で、阿玉が新たに命じられた任務は、監察課に配属されたばかりの新人とペアを組んで、ある非違事案について調査することだった。非違事案とは、職員が法令や服務規程に違反する行為(非違行為)をした事例を指す。今回の調査対象は、県警東署の捜査一課に所属するベテラン刑事、澤守竜人。居酒屋に居合わせた客に暴行を加えたと通報があり、防犯カメラを調べたところ、澤守が映っていたという。しかし、その騒動の3日後、澤守は、空き物件ばかりを狙う連続爆弾事件の捜査中、市内の廃倉庫で起きた爆発事件に巻き込まれ、いまも意識不明の重体となっている。当然、本人に事情を聞くことはできない。また、爆発事件が世間の注目を浴びているいま、調査には慎重な配慮が求められる。
この厄介な任務に加えて、プライベートでも阿玉に大きな問題が持ち上がる。小学生の息子に動物殺しの疑いがかけられているというのだ。事情を問いただしても息子はかたくなに答えようとしない。いったい何が起きたのか?
公私ともに頭の痛いことばかりで、阿玉はどんどん追い詰められていくのだが、問題解決のためにつねに最善のルートをさがす彼の性分のせいか、はたまた若干のB級っぽさを漂わせつつテンポよく話を進めていく達者な書きっぷりのせいか、不思議とリーダビリティは高く、読み心地は悪くない。
タイトルに『沈黙と爆弾』とある以上、息子の沈黙(動物虐待事件)と連続爆弾事件はどこかで結びつくはず……と思いながら読んでいると、両者はなかなか合流しないまま、残りページが少なくなっていく。しかし、仕事でも私生活でも逃げ場のないピンチに阿玉が追い込まれてからが作者の腕の見せどころ。すべての伏線を回収して、絵に描いたような見せ場をつくってくれるのでご心配なく。
著者の吉良信吾は1977年、沖縄県生まれ。熊本県在住とのことで、このデビュー作にも、熊本ご当地小説としての魅力がたっぷり詰め込まれている。
評者=大森 望






