◎編集者コラム◎ 『ミライヲウム』水沢秋生
◎編集者コラム◎
『ミライヲウム』水沢秋生
水沢秋生さんとの出会いは、ファッション誌の後輩からの紹介だった。出版社に勤めていた友人の作家を紹介したいとのことで、会社の近くのビアホールで会うことになった。その時、横浜中華街の餃子の名店がまずかったという話をしたら、水沢さんもその店に行ったばかりで、自分もそう感じたとのことで意気投合したのを覚えている。そこからはあまり記憶はないのだけれど、〝売れる小説とは〟みたいなこと熱弁していたようで恥ずかしい。メールを調べたら、2015年のことだった。
その後一度会ったものの、具体的な話も進まぬまま水沢さんが大阪に引っ越してしまう。
そこから長く連絡が途絶えた、と思っていた2019年8月。突如、水沢さんからメールが来た。素敵な企画を思いついたので興味ありませんか? と。今月中に脱稿しますともあって、「書いてるじゃん!」と驚きつつも、自信ありげな文面を信頼して「読みます!」と返した。
それこそが『ミライヲウム』だ。送られてきた原稿には、青臭くて恥ずかしいタイトルがついていたのもはっきりと記憶している。
そんなことは、さておき。
一読して、感動した。はっきり言えば泣いた。
そこから改稿に改稿を重ね、タイトル案も考えに考えた。でも、実際に対面でお会いしたのは一回か。発売前に配った見本の評判もよく、単行本として世に出せたのが翌2020年7月だ。
けして多い初版部数ではなかった。けれど、水沢さんの書店員さんからの人望もあって評判が評判を呼び、重版となった。著者プロフィールを誤植していたので安心したし、心からうれしく思えた。水沢さんと私の舌は、世間と合致してたでしょ! と。
文庫化にあたり、単行本よりも多くの初版部数に決まった。この機会に、切ないラブストーリーでもあり、二度読みしてしまうミステリでもある本作を体感していただければ幸いだ。
そして、まったく会えていない水沢さんと祝杯を挙げたい。
──『ミライヲウム』担当者より
『ミライヲウム』
水沢秋生