◎編集者コラム◎ 『旅ドロップ』江國香織

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『旅ドロップ』江國香織


旅ドロップ_編集者コラム

 2019年に刊行されて版を重ねた単行本が待望の文庫になりました。

 JR九州の旅の情報誌「Please」に連載された短いけれど珠玉のエッセイ36篇に加えて、若い女の子二人のフランスからアフリカへの〈鉄道での旅〉を描いた「トーマス・クックとドモドッソラ」という名篇、さらには単行本未収録だった〈旅をめぐる詩〉三篇を収録した宝物のような一冊。

 まず、この本についての彼女のインタビューを少しだけ紹介しましょう。これは、「しんぶん赤旗 日曜版」に掲載されたもの。

「自分でも、ちょっとおかしいんじゃないかと思うくらい旅が好きです。若いころは、旅に出られなくても成田空港まで行き、半日過ごして帰ってきたりしたほど空港の雰囲気も大好きです」「ここに書いた一番古い旅は20歳くらいの時。ひとつひとつのエッセイは短いんですが、なかに込められた時間は結構長いんです。子どものころから、本や映画のなかの外国に憧れていました。いまは、違う言葉を話す人がいる場所、というところを面白く感じています。」「名所旧跡には興味がないんです。それよりは、そこで暮らす人たちにまじってバスに乗ってみたりします。私はメインディッシュより前菜が好き。空港も前菜みたいでしょう。」

 そんなわけで、この本には旅先で食べた美味しいものの話もたくさん収められています。なにしろ噂に聞いた〈バターパン〉を求めて福岡日帰り旅行をする話まである。江國さんは、知る人ぞ知るバター好きなのです。

 いわゆる旅行記というジャンルからかけ離れた見事なエッセイもあります。『幸福な王子』と『おやゆびひめ』に登場する〈かわいそうなつばめの旅〉もあるし、平安時代の旅の話もある。そしてなんと、初めて入るデパートの食品売場は〈三十分間の旅〉になるのですから。

 そんなわけでこのエッセイ集は、コロナ禍のせいで旅に飢えている読者にお届けする絶好の贈り物になるはずです。

 この本の最後に収められた「トーマス・クックとドモドッソラ」の初出は、山本容子画集『過ぎゆくもの』(2007年/マガジンハウス刊)です。この豪華な本は、江國さんの他に谷川俊太郎・池澤夏樹・小川洋子さんたち10人が詩やエッセイを提供し、各篇に山本容子さんが美麗な銅版画を添えたもの。

 ご紹介するのは、江國さんのエッセイをモチーフにした山本さんの作品です。この絵は大宮にある鉄道博物館のステンドグラスになっていますので、「旅」のついでにぜひご覧ください。

──『旅ドロップ』担当者より

旅ドロップ

『旅ドロップ』
江國香織

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