世界中で愛されるムーミン! 誕生秘話からスナフキンなどキャラクター別の胸に突き刺さる名言20選

2019年3月、埼玉県飯能市にある北欧風テーマパーク「メッツァビレッジ」の中に、「ムーミンバレーパーク」がオープン。こどもだけでなく大人のファンも多いムーミン作品に込められた、作者・トーベ・ヤンソンが人々に伝えたかったこととは? 個性豊かなキャラクターたちの、胸に突き刺さる名言を紹介します。

2019年3月16日、埼玉県飯能市にある北欧風テーマパーク「メッツァビレッジ」の中に、「ムーミンバレーパーク」がオープンしました。ムーミンの公式テーマパークは母国フィンランド以外では世界初ということで、注目を浴びています。さらには2018年センター試験の地理Bでも、ムーミンに関する問題が起用されるなど、幅広い年齢の人に知られていて、人気があることがわかります。
こどもだけでなく大人のファンも多いムーミン作品は戦争の真っただ中で描かれ、作者であるトーベ・ヤンソンの戦争に対する憤りや自由への憧れが込められています。トーベ・ヤンソンが人々に伝えたかったことは、個性豊かなキャラクターたちの言葉となって、今もなお世界中に広まり続けています。
今回は多くの作品を世に送り出してきたトーベ・ヤンソンの生い立ちと、ムーミン作品の中から胸に突き刺さる名言を紹介します。

トーベ・ヤンソンについて

第一次世界大戦が始まっていた1914年8月9日に、フィンランドの首都ヘルシンキに生まれたトーベ・ヤンソン。ヤンソン一家は芸術一家で、父のヴィクトル・ヤンソンは彫刻家、母のシグネ・ハンマルステン・ヤンソンはグラフィックアーティストという環境の中で育ちました。
ストックホルムとパリで絵について学び、多岐に渡る媒体にイラストや絵画作品を提供してきましたが、その中でも多くの人に驚きを与えたのは、ガルム誌に掲載された政治風刺画です。戦争が早く終わってほしいと願うトーベの政治風刺画は、戦争を批判して平和への愛を感じさせるもので、共感と批判を含め世の中に多大な影響を与えました。
後に漫画や小説を書き始めたトーベの作品の裏側には、戦争を経験したからこそ平和や自由を願う気持ちが込められています。
作家として稀代の才能を発揮したトーベは、1953年に北欧で絵本の最高峰といわれる賞のニルス・ホルゲション賞、1958年に児童書イラストの価値や技術に貢献したイラストレーターに贈られるルドルフ・コイヴ賞、1966年に国際アンデルセン大賞、1984年にフィンランド国民文学賞など、多くの賞を受賞しています。

ムーミン誕生秘話

ムーミントロールというキャラクターは、トーベが風刺漫画を描く時にサインとして使っていた怒った顔の生物・スノークが元になっています。スノークという言葉には、「指図や命令をし、いばったり、うぬぼれたりする人」という意味があります。そんなスノークが優しいムーミントロールに変わっていったとは驚きです。ちなみに、ムーミン物語にはスノーク一族のスノークというキャラクターも登場します。ムーミンの恋人であるスノークのおじょうさん(別名:フローレン、ノンノン)の実の兄でもあります。
トーベは1940年代の初め頃から、過去に生み出したキャラクターを主人公にした安全で穏やかなムーミンの世界を創り、様々な物語を執筆しました。トーベが戦争という残酷な現実や絶望的な気持ちから逃れ、自分の心を癒やすために書き始めたおとぎ話こそが、世界中で人気のムーミン物語なのです。つい嗅いでみたくなるようなライラックや、木いちごのジャムを塗った大きな黄色のパンケーキの香りが漂うムーミン谷は、疲弊したトーベの隠れ家でもありました。戦争を連想させる大災害や様々なトラブルがモチーフになることも多く、不安や恐怖に対するトーベからのメッセージが隠されています。

『ムーミン谷の十一月』が最後の小説

ムーミン一家の一番の特徴は純粋さです。自分たちと違う世界を受け入れること、登場人物が互いに仲が良いことが大きな特徴なのです。
 
『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』(河出書房新社)で、トーベはムーミンの世界についてそう語っています。

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https://www.amazon.co.jp/dp/4309206581/
 

「自由が最も素晴らしい」と語ったトーベが描いたムーミンの世界は、美しい自然に囲まれていてとても平和です。のんびりとした日常生活を過ごし、冒険を通じて自立しながら成長していく姿を見届けられます。彼らの冒険を見届けることで読み手にも新たな発見が生まれます。
最愛の母であるシグネ・ハンマルステン・ヤンソン(愛称・ハム)が亡くなる前に執筆を始めた『ムーミン谷の十一月』がムーミンシリーズの最後の小説です。ムーミン一家が一切登場しない中で、登場人物たちが自分の抱える問題を乗り越えていく物語ですが、ところどころに母と二度と会えないという悲しみが散りばめられています。全9巻の物語で、1巻ごとに物語の雰囲気ががらりと変わるのも面白さの1つです。

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主要キャラクターの名言

 

・ムーミントロール
ムーミンシリーズの主人公・ムーミントロールは、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』でトーベの別人格と語られています。誰よりも個性的というわけではないけれど、好奇心旺盛で常にみんなの中心にいるムーミントロールは、楽しいアイディアを生みながら様々な冒険をしていきます。友だち思いであり、家族のことを大切にする心優しい男の子で、ムーミン谷の住人からとても愛されています。

「ときどき子供っぽくなれないなら、大人になる意味なんてない」

「ぼくはただ平和に暮らして、ジャガイモと夢を植えたいだけなんだ」

 
 

・スナフキン
スナフキンのモデルはトーベの昔の恋人・アートス・ヴィルタネンであると、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』(河出書房新社)に書かれています。誰にも執着しない、誰にも頼らない強さを持っていて、自分にとって本当に大切なものを理解しているスナフキン。嫌いなものは看板。「立ち入り禁止」や「入るな」など、禁止されることが嫌いな、自由と孤独を愛する旅人なのです。口数は少ないけれど誰よりも物知りなスナフキンが発する言葉には重みがあり、ムーミン谷の住人から絶大な信頼を得ています。姿かたちは人間のようですが、実は妖精です。

「“いつもやさしく愛想よく”なんて、やってられないよ。理由はかんたん。時間がないんだ」

「大切なのは自分のしたいことを自分で知っていることだよ」

「なにかためしてみようってときには、どうしたって、きけんがともなうんだ。かまうもんか、すぐほうりこんでみろよ」

「その奥さん、親戚は多いし、知りあいもたくさんいたんだ。でもね、いうまでもなく、“知りあいがわんさといたって、友だちはひとりもいない”ってことは、ありうるんだよ」

 
 

・リトルミイ(ちびのミイ)
ミムラ族のミムラ夫人の末娘で、玉ねぎヘアーが特徴的な小さな女の子。怒りっぽくて自信家で自由奔放なミイは、ムーミン谷の中で唯一イエスマンではない存在です。厳しい言葉を言いますが、内容は物事の核心をつくことばかり。コミックスの4巻からムーミン一家の養女となったみんなの妹のような立ち位置のキャラクターですが、スナフキンとは異父姉弟でもあります。

「たまには、怒んなきゃあね。どんなちっちゃな生きものにだって、怒る権利はあるんだから」

「あんたったら、ほんとに自分自身を騙すのが上手ね」

「それがあんたのわるいとこよ。たたかうってことをおぼえないうちは、あんたには自分の顔はもてません」

「秘密って、遅かれ早かれ、当のご本人が、自分でしゃべるものなのよ」

 
 

・ムーミンパパ
ムーミントロールのパパで、冒険好きな大人。捨て子だったためムーミンみなしごホームで幼少期を過ごしますが、ホームの雰囲気や従順なムーミンっ子たちと気が合わず、ムーミンみなしごホームを脱走したと『ムーミンパパの思い出』(講談社)に書かれています。哲学的な思考を好むムーミンパパは、ムーミン谷きってのロマンチストでもあります。ムーミン谷で何かが起きた時にはすぐに駆け付けたいと思っている、勇敢さを持つ一家の大黒柱です。自身の経験や想像した物語を書くという趣味も持っています。

「きっと、嵐って、朝日が、そのあとに昇ってくるためだけに、存在しているんじゃないかなあ……」

「わしはしばらく眠るよ。ちょいちょい、眠っている間に、問題が自然に解けることがあるものな。頭はほったらかしにしておくと、よく働くものなんだ」

 
 

・ムーミンママ
ムーミントロールのママで、とても優しくて料理上手。ムーミン谷がいつでも穏やかで愛に満ち溢れた空間なのは、ムーミンママの人柄のおかげと言っても過言ではありません。安心感があって落ち着いているムーミンママは、みんなの心の拠り所でもあります。

「なにかがわかるまでに、とても時間がかかることがあるものなのよね」

「たまには変化も必要ですわ。わたしたちは、おたがいに、あまりにも、あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない?」

 
 

・ヘムレンさん(ヘムル)
ヘムレン(ヘムル)というのは名前ではなく種族の名前です。静寂を愛する公園番、スキーが好きなスポーツマン、植物学者、警察署長など、様々なヘムル族が登場します。秩序を重んじるヘムル族は基本的にコレクター体質で、1つのことに没頭すると周りのことが見えなくなってしまいます。頑固で気弱な性格から様々な問題を引き起こしますが、憎めない存在です。

「ひとつひとつの物の、ぴったりの場所がわかる人なんて、めったにいるもんじゃない。すべての物を、自分で全部、整理せいとんできる人なんて、ほんとうに、ひと握りしかいないんだ!」

「よけいな考えや思い込みをすべて追っ払ってくれるんだ。わかるだろ、室内ですわっていることほど、危険なことはないんだよ」
「へえ、そうなの?」
ムーミントロールがいいました。
「そうだよ。だって、そんなことをしていたら、いろんな考えが、わきでてきてしまうだろう?」

「じぶんのことを、たなにあげるな。そうかんたんに、じぶんの責任はなくならんぞ」

 
 

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生活する上で出会いと別れを繰り返しながら、ムーミン谷の住人たちが大切にしている自由について

だれも心配しすぎないって、よいことでした。ムーミンたちは、ほかの人のために、やたらと心配しないでいようと、決めていました。つまり、そのほうが、心配をかけたと思って良心を痛めなくても、すみます。それに、ありったけの自由をあたえあっていることにもなるのです。

ふたりは、たがいにさりげなく敬意をはらいあい、そのくせふたりとも、自分の世界をしっかりと保っていました。相手のためになにかをしてあげるなんてことはなく、わかりあおうともしなければ、気にいられようともしませんでした。こういうのも、居心地よくいっしょにすごす、一つの方法ではないでしょうか。

秋になると、残るものと旅立つものがいます。いつだって、そうでした。好き好きでいいのです。でも、とりかえしがつかなくならないうちに、早めに決心することです。

おわりに

老若男女問わず幅広い人に愛され、心に刺さる言葉を残してきたトーベ・ヤンソンとムーミン谷の仲間達。紹介した中に気になる言葉があったら、ムーミン谷の小説をぜひ手に取ってみてください。アニメとは違った雰囲気のキャラクターたち、そして冒険や奇跡に触れられます。
「芸術を通じて人に何かを与えることはできるだろうか」と悩み続けていたトーベだからこそ描けた、温かで色鮮やかなムーミンの世界。大人が読んでも楽しめる児童書なので、イラストしか目にしたことがない人も、この機会に小説デビューしてみませんか。

 
 

参考書籍
・ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン/トゥーラ・カルヤライネン(河出書房新社)
・ムーミン谷の彗星/トーベ・ヤンソン 訳:下村 隆一(講談社)
・たのしいムーミン一家/トーベ・ヤンソン 訳:山室 静(講談社)
・ムーミンパパの思い出/トーベ・ヤンソン 訳:小野寺 百合子(講談社)
・ムーミン谷の夏まつり/トーベ・ヤンソン 訳:下村 隆一(講談社)
・ムーミン谷の冬/トーベ・ヤンソン 訳:山室 静(講談社)
・ムーミン谷の仲間たち/トーベ・ヤンソン 訳:山室 静(講談社)
・ムーミンパパ海へ行く/トーベ・ヤンソン 訳:小野寺 百合子(講談社)
・ムーミン谷の十一月/トーベ・ヤンソン 訳:鈴木 徹郎(講談社)

初出:P+D MAGAZINE(2019/05/15)

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