週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.96 八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店 平井真実さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店 平井真実さん

ぼんぼん彩句

『ぼんぼん彩句』
宮部みゆき
KADOKAWA

 文芸書の担当をしているというと友人からは、小さいころから小説好きだったからいいねと言われるが、実は文芸書担当は小説だけではなく、ノンフィクションやエッセイ、詩、短歌、俳句などその店によって若干の違いはあれど幅広く担当をしていることが多い。
 私の店では熱心に本を選んでいる方が多くみられるのは詩、短歌、俳句の棚だ。文芸書のジャンルは実用書や児童書のようにはなかなか季節感を出すことが難しいが、先の棚に関しては平台に鎮座する歳時記で季節が変わりゆくことを実感できるので好きな棚だった。
 それにしても、五七五の17文字だけで季節や情景を表現する俳句は、ツイッターの140文字ですら全くまとまらない私にとってまったくの雲の上の世界であった。

 そんなある日、宮部みゆきさんの新刊が入荷した。ミステリー、ホラー、ファンタジー、そして時代小説まで、書けないジャンルがないのではないかと思うくらいどの作品も面白く大好きだった。今回はどんな感じなのかワクワクしながら単行本をみると、「ぼんぼん彩句」とタイトルがあり、帯には「俳句×小説 宮部文学の新しい挑戦」と書かれていた。ええ? 俳句??? と頭の中に?が飛び交っていた。宮部さんと俳句?? 全く想像がつかないけどものすごく気になるのですぐに購入してきた。
 私の?マークはこの作品の中の宮部さんによるあとがきにすべて書いてあった。2012年の夏に「怖い俳句」という本に出会い、全く触れたことのなかった17音の俳句の世界に魅せられたこと、仕事を通じて出会った方々と作った会で句作を始めたこと、そしてそこで生まれた俳句をタイトルにして短編小説を書くというアイデアを思いついたことなど。私はどの小説でも先にあとがきを読んでしまうのだが、この作品を手にした方、ぜひあとがきを先に読むことをおすすめします。

 作品は12の俳句と12の短編小説で構成されており、各作品の扉にまず俳句が書かれ、物語が始まり、物語の最後に扉に書かれていた俳句が再び現れる。この構成が本当に絶妙で、物語を読む前と読んだ後の俳句の印象が全く変わり、読んだ後には17文字の中に彩られた世界がふわっと現れるのだ。凄い、凄すぎる。雲の上の世界だった俳句の世界が急に身近になり、一気に広がりを感じた瞬間だった。俳句に続く短編小説はもちろんいつもの宮部さんの世界で、ホラーやSF、サスペンスなど盛りだくさん。特に「月隠るついさっきまで人だった」「山降りる旅駅ごとに花ひらき」「薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子」「冬晴れの遠出の先の野辺送り」が印象に残る。このたった17文字の中にどんな世界が広がっているかはぜひ手に取って確認してほしい。

 あとがきによるとまだメンバー全員の俳句をカバーしていないので2巻3巻と続けていきたいと綴ってあった。こんな凄い作品をまた読むことができるなんて! と今から楽しみで仕方がない。

 

あわせて読みたい本

にっぽんの歳時記ずかん 新装版

『にっぽんの歳時記ずかん 新装版
平野恵理子
幻冬舎

 ここ数年四季がなくなったように感じるが、俳句に触れたことで昔からの季語や歳時記を詳しく知りたくなりこの本にたどりついた。小さいころは田舎の祖父母の家に行くとその季節ごとの行事に触れることが多かったが今は皆無に等しい。この本に書かれている季節ごとの風習や暦、行事、植物や動物、さらには俳句や短歌、絵画などで四季を大切に感じたい。『春風や 堤長うして 家遠し 与謝蕪村』

 

おすすめの小学館文庫

日本語ぽこりぽこり

『日本語ぽこりぽこり』
アーサー・ビナード
小学館文庫

 2005年に講談社エッセイ賞を受賞しているこの作品が18年たっての文庫化。外国語をいま習っている私にとって、外国語は習うだけではなくその国の文化や歴史を知らないと文章を読み解くことが難しいことを常に感じているので、この作品に書かれているビナードさんの日本語への視点と文化や翻訳への見方がとても興味深い。中でも芭蕉の俳句「閑さや岩にしみ入る蝉の声」のビナードさんによる英訳は、数年前に行った山寺への長い道のりを思い出させてくれた。

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